呼べないだけ

何だか最近。

「……神山ァ」
「はいっ!何ですか沖田隊長!」
「…呼んだだけ」
「た、隊長ォオ!それは普段素直になれない隊長のデレですか!ツンデレですか!9対1比率ですかァアア!」
「うんごめん。言ってる意味がよく分からないや。とりあえず死んでくんない。素直になって今なら殺せそうだから介錯してやらァ」「隊長になら本望です!」
「頼むから死んで本当」


…こんな会話を、良く聞くようになった気がする。
山崎は小さく首を捻った。


***

沖田隊長がそんな風にしょっちゅう神山を呼ぶようになったのは、多分六角屋事件の後…だったと思う。少なくとも俺にはそう見えた。


隊長が神山を呼ぶのは決まって見回りの途中とかサボりの途中とかサボり最中とかサボりとか。繋がりは屯所外、それくらいだろうか。


今日は珍しく神山はいなくて、俺と隊長の二人で見回りだ。勇気を出して聞いてみようと思う。もし何かあったら、残骸くらいは拾って欲しい。


「お、沖田隊長」
「ん、なんでィ」
団子をくわえながら歩を進める沖田隊長に不審な点はこれっぽっちもない。
「最近、神山よく呼んでますよね?何かあるんです…」
か?そう言う寸前に、首元から空を裂く音がして、視線をずらすとさっきまで隊長がくわえていた団子の串が残り数ミリで止まっている。
「ヒッ!」
「いつ、気付いた……」
「え?えっ、と数日前…でしょうか…」
「誰かに言ったら……」
そこで隊長は首筋の串を山崎に押し当てた。
「…分かるよなァ」
「わっ、分かりますっ!」
え、ていうより沖田隊長って。
頭の中で巻き起こる沖田と神山のやり取り。
「隊長って神山と付き合ってるんですか?」
「おい、何をどうしてどう化学反応起こしたらそんな気持ち悪い考えが出てくるんでィ」

団子の串が首元に食い込んでくる。

「いや、だって……」
「山崎じゃなきゃ殺ってたぜィ」

それは俺が山崎退だったことに感謝しなければ……って、そうじゃなくて。


「じゃあどうして……」
「分かんねーなら言うわけねェだろィ」


そうしてまた新しい団子を加えた沖田隊長は、どうやら教えてくれる気はなさそうだった。


諦めて自分も団子をくわえる。
すると曲がり角から見知ったチャイナ服の女の子。
「あ、チャイナ娘さん」
「……ごふっ」

「ジミー!久しぶりアルな!」
目が合うとチャイナさんはにこやかに駆けてきた。団子を喉に詰まらせた隊長は必死で冷静を保っている。

「……って、お前もいたアルか」
「…いやしたねィ。酢昆布の食い過ぎで目まで悪くなったんじゃねェのかィ」
悪口には悪口を。二人の間に火花が散っている。
相変わらず仲悪いなぁ。
「まぁまぁ二人とも。あ、そうだチャイナ娘さん団子食べますか?」
なんとか乱闘の始まりそうだった場を収めようと団子を取り出すと、チャイナさんは目を輝かせた。

「流石アルなジミー!気がきくアル!」
「チッ。こんなヤツにやる団子が勿体ねーだろ」
「こんな無表情なヤローに食われるより、プリティな女の子に食べてもらった方が団子だって喜ぶアル!」
「可愛い女の子?どこでさァ」
キョロキョロと辺りを見回す沖田隊長。
対しチャイナさんはわなわなと震えている。


怖いことこの上ないんですが。


「私に決まってるダロ」
「は?テメェのどこが可愛いっ」
最後まで隊長が言い切る前に火花が散った。ちなみに比喩表現ではない。
俺の目が追い付かないスピードで二人は戦闘を始めた。一応人を巻き込まないように注意はしているらしい。どんどんと川沿いにずれていき、二人は更に戦闘を激化させる。

「隊長!副長に殺されますよ!」
「その前に私がその首掻き消してやるネ!」
「山崎!テメェチクったら覚えとけ!」

あれ?
そう叫ぶ二人の声が、なんだか楽しそうに聞こえて。観察の性分か、もう一度整理して考え直す。


外でだけ呼ぶ神山の名前。戦ってはいるが楽しそうな二人。
素直じゃない隊長。
もしかして、


「隊長って……」


俺が考えを巡らせている間にどうやら戦闘は一段落ついたらしい。今回は短くて助かったと俺は胸を撫で下ろした。



「フン!時間を無駄に使っちまったアル!帰るネ!」
「………か、……………………………………………………………………チャイナ」
隊長はだいぶ長い時間をとった後、隊長の食べかけの団子をチャイナさんの口に突っ込んだ。
「むぐっ!」
「…お前なんか、食いかけで十分だろィ」

そう言う隊長の態度は普段と変わらないけど、いつもより少し早い口調を俺は聞き逃さなかった。


それと、妙に伏し目がちで耳の赤いチャイナさんにも。





名前が呼べないだけ




隊長って意外とヘタレなんですね。


なんて言ったら半殺しに合うのは目に見えていたので、俺は何も言わなかった。
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