強くなりたいその前に。

自分の弱さに腹がたった。
敵わない。


殺される、と本気で思った。


自分の、兄貴に。






「チャイナァー。そこどきやがれーぃ」
沖田がまた(毎日じゃないか?)巡回をサボって公園へやって来た。
「嫌ヨ。バーカ帰るヨロシ。今はガキに付き合ってるほど暇じゃないネ」
「座ってるだけだろィ。…どーしたんでィ」
結局許可を取らずに沖田は私の横に座ってしまった。


なんだかんだで座る場所を自然と開けている私も私だが。


「どうもないアル」

「そーかィ」
なんだ、諦め早っ。
せっかく少し嬉しかったのになんて、勝手だろうか。
「言いたくないなら、言わなくていい。クソガキチャイナの悩みなんて大したことないだろうしねぃ」
カチンときた。
「バカにするなヨ!!お前なんかに分かるはずのない繊細な悩みネ!」
「酢コンブが売り切れてたとか?」


なんでこいつは、こんなバカなんだろう。
いや、確かにいつもは酢コンブについて熱く語ってはいるが。


「違うアル。兄貴の事ネ」
「兄貴?チャイナ、兄貴がいんのかィ。ハゲ坊主…じゃねぇや父ちゃん似?」
ハゲ坊主、こんどパピーに言おう。
次の日にコイツはきっと病院で意識を飛ばしてる。
「マミー似ヨ。カッコいいアル」

「ふぅん」
神楽の個人情報ゲーッツ!!と沖田が喜んでる事を知らずに、神楽は知らず知らず悩みを打ち明けていた。


よりにもよって、このドS野郎に。

「兄貴は血に誇りをもってるアル。殺すのが楽しいって、銀ちゃんでもきっと、…勝てない」

「旦那が?そりゃ強ェんだなぁ」

「強い、ヨ」
でも、

「チャイナは人を殺すのを躊躇って、本能を理性に縫い付けてる。その兄ちゃんとは反りが合わないんじゃなぃかぃ?」



「な、!」
本心を読み当てられて隣の奴を凝視した。
「分かりやすすぎるんでぃ。お前は」
「そ、そんな事ないアル!」



「で、何がそんなに不安なんでぃ」
サクッと話を進める沖田の話し方が好きだと神楽は思った。
「私にも夜兎の血が流れてるネ。もしもその本性が現れて、暴れたら」
銀ちゃんが、新八が、そして、コイツが…


「もっと、強くなりたい」
「チャイナは十分強いと思いますがねぃ。ま、俺には負けるけど」

「負けてないアル」

強くなりたい。




自分に勝てるくらい。
兄貴に張り合えるくらい。




「なぁチャイナ」
「何アル?」
「俺がついてやすぜぃ」

「…気持ち悪いネ」
俺がついてるだって!
いきなりなんだコイツは。



「兄貴とか夜兎とか旦那とか、俺は部外者だから良くはわかんねェ。だけど、強くてマウンテンゴリラで酢コンブ好きなお前の事は知ってる。お前は強い。だけどもし、その夜兎って血が暴れだしたら、俺が相手してやるよ」
「死ぬアルよ。そんなことしたら」

「構わねえ。…いや、俺は死なない」
私のため?なんて、あり得ない乙女回路が働く。
「俺には真選組があるからねぃ。一番隊隊長として、死ぬ訳にはいかない」

だろうな。
分かってる。コイツの大事な居場所。
「でも、お前をこの手にかけたくなんかないアル」
「今まで散々死線ギリギリのやりあいをやってきた奴の発言とは思えないねィ」
「夜兎の本来の力は、あんなもんじゃないネ」



「へぇ、そいつは楽しみだ」
「お前…!」
「まぁ俺じゃなくてもいい。チャイナには、沢山お前を護ってくれる仲間がいんだろィ。」

「銀ちゃんや、新八?」
「そうだねぃ。他にも姉さんとか、マヨとか近藤さんとか」
仲間、か。


弱いのは、許される?


「強くなりたいと思う事は否定しない。でも、弱くても誰も責めないと思うぜィ。ここは」




「じゃあランニングしてくるアル!」
「あれ、人の話聞いてた?」
「強くなりたいと思う事は否定しないってお前言ったダロ」

「言いやしたが」



「お前に相談したら、悔しいけど少しスッキリしたアル。だけどこんくらいはしなきゃ」

「そーかィ」
本当に少し、心は軽くなったんだ。


「じゃーな、サド」
「ちょっと待ちなせィ」
「え?」
立ち上がりざまにぐいっと腕を掴まれた。



振り替えると、気付けば触れて離れた唇。




「な、ななななななっ!?」
「相談料」
「ば、バカダロ!この変態サディスト!」
「誰が変態でィ。お前俺が大人しく相談に乗ってておかしいと思わなかったのかぃ」
ニヤニヤ笑う沖田にさっきの優しさは微塵も感じられない。



「ごちそうさま」
唇を示しながら勝ったように笑う沖田。


何も言う言葉がなくて、



「ち、チクショオォオオオオオ!」


結局公園を走って出た。







私には、銀ちゃんがいる。新八や、姉御やズラやゴリやマヨがいる。





そして、
(アイツがいる)
…癪だけど、


嬉しかったんだ。
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