動き出す春

「銀ちゃん……」
「神楽。どうした」


卒業式といえど、3zの騒がしさは普段と変わらなかった。がやがやする教室、教卓の前に立つ銀八は目を細める。
こんなクラスでもやっぱり、馴染めば悪くなかったなんて、らしくない。

「ねー、銀ちゃん」
「何。生憎俺、第二ボタンは当の昔になくしちゃったんだよね」

目の前から横へと移動し、見上げてくる神楽は少し目を潤ませていた。それはいい。むしろ至って普通の卒業式らしくていい。
…………が。


突き刺さって呪い殺されそうな殺気は良くない。非常に良くない。


「たまには遊びに来ていいアルか?」
「あ?ああ、たまにな――……!く、くんな。やっぱくんな」
殺気が二倍増しになった。二度と会うなって事なのか。
冷や汗をかきながら泣きそうになる神楽を見て慌てた。
「来ちゃ駄目アルか…?」
「俺は全然構わな」
神楽の目が期待に煌めくと同時にヤツの目が怪しく光る。殺られる。確実にアイツはヤル気、違った殺る気だ!

「構う構う……構うから、神楽ちゃんは構うべき相手を構ってやって」
「……アイツは」
急に不機嫌そうに頬を膨らまし下を向く神楽に、銀八は首を傾げた。
相手がアイツだと自覚するほど神楽って勘が良かったか?
「アイツはっ……昨日私に、その……」
好き、とか冗談言うからっ……。と、最後の方は小さくて聞き取れなかったが、どうやらリアクションはきちんと起こしたらしい。
「冗談だと思ってんの?」
最後の最後まで問題児だコイツらは。喧嘩ばかりで、うるさくて短気で教室崩壊魔で。
けれどやっぱりそんなんでも。
「冗談に決まってるアル。だってあんなにいつも喧嘩ばっかりで……」
「言われてどう思った?」
だんだん赤くなっていく神楽と、だんだん殺気を濃くしていくアイツ。
そんなんでも、やっぱ。
銀八はフッと笑った。


やっぱ、俺の可愛い生徒なんだ。

神楽は小さく小さく呟いた。素直じゃないコイツの、アイツに対する貴重な本音。
「もし……もしも冗談じゃないなら、そのっ。う、嬉しかっ」
耳まで真っ赤にする神楽を、銀八は優しく抱きしめ、アイツに聞こえるよう言った。
「会いに来い。菓子とか気のきいたモン持ってこいよ」
「銀ちゃ……っつ!?」
「触んな」
神楽の体が反対に引っ張られた。ようやくは動いたか。……全く世話のかかる。しかも、世話になった事すら気づいてねーんだから。
「沖田!?」
「……チッ。何、抱きしめられてんでィ。腹立つ」
嫉妬したことを隠そうともせずに、沖田は神楽を引っ張って教室を出ていった。

「先生もたまにはやるじゃないですか」
にっこりと学級委員長こと妙が微笑む。
「お妙さん!さあ今素直になって、俺らもフゴォォオ!!」
どさくさに紛れて抱きつこうとした近藤が殴り飛ばされた。
「あいつらも鈍かったからな。ようやくか。ったく散々迷惑かけやがって」
マヨネーズと卒業証書を机に置き土方は鬱陶しそうにため息をつく。
「そんな事言って、この間俺にあの二人が上手くいくにはなんて相談してきましたよね」
「……山崎ィィイイ!!」
ぎぃやああ!と教室に鈍い音と悲鳴が重なった。
「結局クラス中ほとんど、あの二人がどうなるか気にしてたんですね」
苦笑しつつ、新八も二人が出ていった廊下を眺めた。


窓の外をふと見ると、空がいつの間にか青く澄んで、少しずつ、春を知らせようと動き始めていた。


さて、あとはあいつらの努力次第だ。
銀八は出ていったクラス中心配してる二人の今後を考え、珍しく優しい笑みを浮かべた。




見事神楽を射止めた沖田が銀八を殴りにくることも知らずに。



動き出す春





『銀八先生?さっき何コイツ俺より先に抱きしめてるんでさァ』
『そういえば急だったアル不自然だったネ。……しばらく私に近寄らないで』
『ちょ、お前までか神楽!あれは二人を応援した俺なりの……』
『問答無用でィ!覚悟!』


『……この、恩知らず共!!』














現在8月。超季節外れ(笑)




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