2

沖田の不機嫌に神楽はすぐ気が付いた。それが、さっきの話のせいだということも。
しかし付き合ったといったって小学校の頃だし、カラオケなんか親同伴だった。それを言えば、いいのかもしれないが。


……なんだか話せる雰囲気を逃したアル……。


せっかく初めてのデートなのに。そう思うと胸がギュッと苦しくなって、強く握られている右手を握り返した。



沖田は苛立っていても無理矢理引っ張って歩いたりしない。
普段はお互い恥ずかしがって手も繋がないので、絡まった指先だけがいつもより沖田の独占欲を吐露していた。

しばらく歩くと、割と名の知れたカラオケ店が見えてきた。店に入り、店員に声をかける。
「二人。機種はなんでもいい」
店員は明らかに不機嫌な沖田にやや引き気味のようだ。
「お、お時間の方…」
「フリーでいいの」
「お任せするアル」
じゃあフリーで。短くそう告げると、部屋を案内された。



部屋を開ける。少しタバコ臭いが、内装は中々洒落ていて神楽は目を輝かせた。
「きっれーなとこアル!沖田、なんか一緒に歌…」
「ああ……」
目に見えて苛立ち落ち込んでいる沖田を見て、何かがプチンと音をたてて千切れた気がした。
楽しむために、一緒にいるのに。


「んの……クソボケェエ!!」
「は?うぉっ、と」
右手に拳を作って殴りかかろうとしたら掴まれた。それだけで、なんだか泣きそうになる。
「サドのバカ、アホ、ガキ」
神楽が泣きそうな事に気づいた沖田は急におろおろし始めた。
「おい、なんで泣くんでさァ!」
「まだ泣いてねーヨ。ボケ」
その雰囲気できっと、何か伝わったのかもしれない。沖田が掴んだ手を、神楽の手首に移動した。そのままソファにトスッと二人倒れ込む。

「お、おきっ…」
赤い瞳が自分をはっきりと映している。それがやけに嬉しかった。
「チャイナが悪い」
「はぁ!?喧嘩売ってるアルか」
「違ェよ。テメーが」
「彼氏がいたって言ったからアルか?」
「半分正解」
「もう半分は?」
「俺が悪い」
「は?」
心なしか近くなる沖田との距離に動揺しながら訪ねる。
沖田はフッと悔しそうに顔を歪めて、神楽との距離をゼロにした。
「チャイナにソイツを思い出させた自分に、苛立ってるんでィ」
その、呟きごと。




お互いもう息が続かないって程長かった。初めてだ。キスも、手を繋ぐのも。よく分からない沖田とリンクされた悔しさも全部。
「はぁ……。死ぬかと思ったアル」
「…………悪ぃ」
「バーカ。謝んなヨ」
付き合っているんだから。………なんて、恥ずかしくて言えやしないが。
「あーいや、なんか、止まんないかなー…みたいな?」
「はっ!?」
その意味を理解出来ないまま、また距離が近くなる。
「ちょっ、」
「まぁまぁ。誰も来ねーよ多分」
「こんの……」
調子に乗るな!そう叫ぼうとした矢先に、隣から大音量で知った声が聞こえてきた。

「砂糖ー綿菓子ケーキーああー甘いもの大好きーー!」
「ばっちょっ、うるせぇよ!総悟達に気づかれるだろ!」
「いいじゃん」
「よくねぇよ!」


それは明らかに銀ちゃんとトッシーだった。
「…あの野郎共……。今度会ったら覚えてろィ」
沖田はこめかみを押さえて立ち上がる。どうやら次会った時があの二人の寿命は尽きるらしい。


「偶然アルヨ、きっと」
「んな訳ねェ。……けど、まあいいか」
「歌おーヨ。せっかくカラオケ来たんだし」
機械で曲を探し始める。




沖田が歌い始めて、その声に一瞬我を忘れて聞き惚れたのは、また別の話。
















***
オマケ
銀時と土方の部屋にて。

隣から聞こえてきた沖田の声に、銀八が複雑そうな顔で尋ねた。
「なぁ、アイツなんであんな良い声してんのに、選曲センスゼロなの?」
因みに現在進行形で「愛と勇気だけが友達さ」と聞こえてくる。
土方は呆れ顔で答えた。
「アイツ曲とかより落語好きだからなぁ。知ってる曲がなかったんじゃね」
そう言いながら『マヨネーズの歌』を転送する。
その隣で銀八は『宇治銀時の魅惑』を転送した。


しばらくすると渋い演歌が聞こえ出す。
「こりゃ神楽だな」
「声ァいいのになあ」
「ア○パ○マ○よりマシなんじゃねーの」


この会話を聞いていたら、「お前らには言われたくねーよ!」と言われそうな二人のカラオケはもうしばらく続く。











由梨様に捧げます!
オマケがなんやかんやで一番楽しかっ(殴

沖神の初デートはきっとすんなりとはいかないだろうなーと思いながら書きました。上手いことリクエストに添えましたでしょうか。

書き直し受け付けます!
改めてまして、コイスルオトメの由梨様、相互ありがとうございました!!
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -