おれのすきな温度

誰にも言ってないし、誰かに言うつもりもない。


***



沖田がお茶を二つ買い公園へ戻ると、神楽がベンチで座ったまま寝息をたてていた。

…器用な奴でィ。

ふっとため息をついて神楽の横に腰かける。お茶のボトルを開けて飲み込むと、心地よい冷たさが喉をスッと流れていった。


チラ、と神楽を眺めて沖田は動きを止めて神楽に見入った。白い肌。華奢な肩。小さな体。
一体どこにあんな力が隠されているのか疑問でならない。たとえ彼女が夜兎であっても。

神楽との戦いが癪だが楽しいと気づいたのはつい最近だ。
気づいたといえばもう一つ。


その時、トスンと右肩に重みが加わった。神楽がもたれ掛かってきたらしい。沖田は自分の体温が上がるのを感じた。心拍数、ともに上昇。
「……クソッ。この、鈍感娘……」



気づいた事。
コイツに、惚れてる事。


気づいた所で毎日の生活に支障がでる訳でもなく変化があった訳でもないが、沖田の心境だけなら大きく変化した。


例えば前より公園に行く回数が増えた。
例えば前よりコイツの事を考えるようになった。
例えば前よりコイツの顔や服に攻撃するのを避けるようになった。



自分のサディスティックはどこへやら。キャラ崩壊もいいところである。



今日、神楽はどこか調子がおかしかった。すこしそわそわしているというか、避けられているというか。
しかし訪ねても答えてはくれなかった。その事が、沖田の胸を締め付けた。相談も出来ないような関係だと言われた気がして。


押し倒した時の事を思い出す。(というとまるで襲おうとしているようだが)
好きな相手の首に刀を当てても、違和感がない。こんな異質な自分なんかの想いが叶う事は多分ない。
それでも、今はまだコイツと喧嘩していたい。
神楽が振り上げた手を握った感覚が、今もじんわり残っているような気がする。掴んだ手が熱く。捕まれた手も熱かった。意味合いは違えど。



「……サド」
ビクッと肩を揺らした。どうやら寝言らしい。全く、人の気も知らないで。
本当は、このまま抱き締めて唇を奪って、本音をいえばぐちゃぐちゃに壊してでも自分のものにしてしまいたい。けれど。


それではこの関係は崩れてしまうから。たった一日の独占で満足できるほど自分の感情は甘くない。


起きないように神楽をそっと倒す。こっちのほうが寝心地は良いだろう。ゆったりとした寝息が聞こえてくる。沖田はそっと笑って神楽の頭を撫でた。
「おやすみ、…神楽」
そのまま自分も瞳を閉じる。


起きた時にコイツがいるかどうか、賭けてみるのも面白いかもねィ。そんな事を考えながら、沖田の意識は薄れていく。閉じていく意識の中、小さく小さく、沖田は呟いた。自分と神楽にしか聞こえないように。
その神楽も眠ってしまっているのをいいことに。


「好きでさァ。だから、もう少し…」



もう少しだけ、このまま。


暖かな風が沖田の髪を揺らす。
公園の木々が少しだけざわめいて、沖田の言葉をさらっていった。




神楽が目を覚ますのは、それから数分後のお話。










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