わたしのすきな温度

誰にも言ってないし、誰かに言うつもりもない。


***


「っの、クソチャイナァアア!!」
ドゴーン!!と、地面が抉れ公共物が破壊される音が辺りに響き渡った。警察にあるまじき行動をスイスイやってのけるのは、真選組一番隊隊長の沖田総悟である。因みに今のは沖田が打ったバズーカの弾丸だ。

「くたばれクソサドォオオオ!」

そんな奴の弾を避け、神楽は傘から弾を連続射撃する。ズガガガッという音と、キィィイン、という刀で弾をはじく音。


これがこの二人のコミュニケーションだと知っても信じない者は沢山いる事だろう。


神楽は撃ち合いながら、高揚感にほんの少し口の端を上げた。癪だが楽しいと気づいたのはつい最近だ。
気づいたといえばもう一つ。


「ぅらあッ!」
「っく、」

傘と刀が擦れてバチバチ悲鳴を上げる。
近距離に沖田の真剣な顔。ふわりと香るコイツの匂い。
神楽は胸が熱くなるのを感じた。慌てて距離をとる。

気づいた事。
コイツに、惚れてる事。


気づいた所で毎日の生活に支障がでる訳でもなく変化があった訳でもないが、神楽の心境だけなら大きく変化した。


例えば前より公園に行く回数が増えた。
例えば前より鏡を眺める時間が増えた。
例えば前よりコイツの事を考えるようになった。


「おい、余所見してんなィ!」
「してねーヨ!」

そう言いつつ、神楽は身近にあった木の棒を刺すように沖田へ投げる。それを刀で沖田が防御している僅かな時間で神楽は距離を詰めた。
ガチッとまた、傘と刀が響き合う。
「余所見してても勝てるアル!」
「…なめんな!」
にやりと笑って挑発すると、沖田の目が細まる。
綺麗な深い、紅の瞳。青い瞳の自分と対の様で、満更でもない。


「笑ってんなィ!」


はっとして意識を戻したが、少し遅かった。
お互い殺し合おうとしてる訳ではないので、沖田は慌てて刀を斬れない方へ傾けて神楽を押し倒す。
「なんか今日、集中してねェけど、どうした」
刀が首に当てられていても、これっぽっちも怖くない。こんな異質な自分なんかの想いが叶う事は多分ない。
それでも、今はまだコイツと喧嘩していたい。

「どうもしねーアル。お前こそ、油断すんナ!」
心臓に悪い体制を変えようと、右手を振り上げた。
パシンと左手で掴まれる。

「…言えねーような事?」
「え?」


掴まれた手が熱い。掴んだ手も熱い。意味合いは違えど。
少し、気のせいかもしれないが憂いを帯びた沖田の声に驚いて聞き返す。

「…何でもねェ」


フイッと顔を逸らして沖田は立ち上がった。
「止め、刺さないアルか」
「気が削がれた。今日は終いにしやしょう」


唖然と寝転んだままの神楽を一瞥して、ベンチを見る。あそこで休もうという事らしい。


「ちょっと茶ァ買ってくる」
「おー」


そのままスタスタと沖田は行ってしまった。神楽もゆっくり起き上がってベンチへ歩く。
随分すっきりとなってしまった公園を静かに眺めていると、睡魔が襲ってきた。

あ、寝る…。


そう思った次の瞬間には、もう睡魔に身を委ねていた。


***


神楽が睡魔から意識を取り戻すと、辺りは紅に染まっていた。
ヤバい、寝てたアル…。
体を起こそうとして、奇妙な感覚に気がついた。
ベンチにしては…柔らかい?


寝返りをうつように体制を変えて上を見ると、瞳を閉じた沖田の顔がある。
一気に目が覚めた。
つまり今現在コイツに膝枕されてる訳……。
体温があがって急に恥ずかしくなった。
公園のベンチで膝枕して昼寝って、どんなバカップルアルか!!
「ん、チャイナ…」
ビクッと体が揺れた。そろそろと沖田を見るが、瞳は閉じたままだ。
どうやら寝言を言っただけらしい。


「…期待させるような事、言いやがってバーカ」
起き上がろうと何故か思えないので、もう一度神楽は瞼を閉じた。
沖田の体温を身近に感じる感覚が気持ちいいなんて。静かに時を流す公園で、神楽の心音がうるさく感じる。

「ね、沖田」


小さく小さく、神楽は呟いた。自分と沖田にしか聞こえないように。
その沖田も眠ってしまっているのをいいことに。


「好きアル。だから、もう少し…」



もう少しだけ、このまま。


暖かな風が沖田の髪を揺らす。
公園の木々が少しだけざわめいて、神楽の言葉をさらっていった。















title:Largo
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -