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古びた音をたてて開いた保健室に、先生はいなかった。
「いない?…ったく、適当な学校でさァ」
「いないなら、別に…」
「いーわけねぇだろ、馬鹿」
問答無用で腕を引っ張られ、椅子に座らせられる。
沖田は手慣れた様子で薬を取り出す。
その横顔を、神楽は少し寂しげな表情で見つめた。
叶わない思いだなんて、そんな事知っているのに。
…こんなにも心臓が暴れる。

「ほら、手出しなせィ」
思わずポロリと、水滴が落ちるように零れた本音。
「嫌…アル」
「はあ?何言ってんだ」
神楽は俯いた。

きっと性格に難があったって、コイツの本当は優しい今みたいな処を見つけて、大事に思ってくれる奴が現れる。
そいつを沖田は好きになって、自分はいつまでも‘喧嘩友達’のままいつまでも。
そんなのは嫌だ。
嫌だけどどうしようもない。
読解不能の本を読んだようだ。分からなくて、わかりそうもなくて、諦めと苛立ちが入り交じる。
「…ゴメンネ」
「あ?手当てか?」
「…ごめん……」

好きになって、ごめん。
友達でいられなくてごめん。



神楽は心の中で繰り返し繰り返し謝った。
気持ち悪いと評されて当然な気持ちに、弱い自分はきっと終止符を打てないだろう事に。対等な気持ちでいられない事に。



神楽の普段とは違う雰囲気を察した沖田は、分からないなりに神楽の右手を取った。目線を合わせようと体制を低くしながら。


「赤くなってらァ」
「右手…アルか?」
「右手も…顔も」


動揺が指先から伝わってしまった。ビクリと震えた手に、沖田が首を傾げる。

「熱があるのかィ」
「ないヨ」


いっそ熱ならどれだけ良かった事だろう。


「沖田」
「あ?何でさァ」


「俺沖田だったら付き合ってもいいアル」
冗談にも…場合によっては本気にも聞こえる中途な言い方に、沖田は眉を潜めた。その瞬間神楽は笑う。
「冗談アル」
本気だったけど。


「沖田…ありがとう」


…ああ、どういたしまして。そっぽを向いて答える沖田の不器用さに、神楽は一度微笑んで右手を離した。











後悔することなんて、分かりきっているけれど。





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