冗談と本気

♂沖田×♂神楽
苦手な人は閲覧注意!!











傍にいたからこそ……それなのに。分かっていても、いや、分かっているから。



***

「神楽、今日昼食堂行かねェ?」
隣の席で、沖田が眠そうに訪ねた。
ちなみに今は三時間目の授業中。神楽はというと、もうすでに、飯のことを考えていた。
「でも俺、金ないアル」
「…たまには奢るか?」
そっぽを向いて、呟く沖田。
「お、マジでか!」
「その代わり…そうだな、校庭を逆立ちで50周とか」
「サヨウナラ」
コイツが素直に奢ってくれるなんて期待した俺が阿呆だった。
手に握ったシャーペンがミシッと軋む。

「じゃんけん」
「は?」
「勝ったらおごってやるよ」


じゃんけんなら勝敗は半分。神楽はすかさず拳を作った。
のってきたことに満足したのか、ニヤリと笑って沖田も拳を作った。



「じゃーんけん…」



ぽん。


***


「炒飯、焼き肉定食、ラーメン、あと…」
「だれがいくつも食っていいっつった!財布が空にならァ!」
にこにこと笑う神楽はどれにしようか、というよりどれを諦めようかで悩んでいた。それを見た沖田の背筋が冷える。
「…じゃあ、ラーメン特盛」
「並じゃ一時間持たねぇもんな神楽は」
「まあな!」
「偉そうにすんな」
「敗者は黙って奢るヨロシ」
「…クソ、覚えてろィ」
悔しそうに財布から小銭を取り出した沖田に対し、神楽は上機嫌で席を探した。さすがに食堂は人が多い。二つの席の空きをキョロキョロと探す。あ、空いた。

ちょうど近くの席が空いたので席をとろうと椅子に触れた瞬間、肩に誰かがぶつかった。
思いの外強い衝撃に、尻餅をつく形で倒れる。
右手が妙に痛い。
「痛っつ、オイ何…」
「あ、ぶつかりました?ごめんね〜?おい○○!席とったぞ!」
一言で表すならチャラい、そんな男だった。
だらけたズボンに染めたと分かる茶髪。自然体の栗色の髪のがまだマシだ。


祖国で神楽は、目を合わせられない恐怖の兄弟と学校で名高かったりしたが、ここはそうじゃない。
ただ、目の前にいるコイツとその連れが、自分より遥かに弱い事は見てとれた。
「オイ」

密かに殺気を醸し出す。
食堂のなかにいる数人がゾクリと寒気を走らせた。
しかしコイツらはなんともないらしい。



これだから弱いヤツは嫌いなんだ。殺気を感じる事すらできないザコ。



睨むと、ザコ1は流石に気づいたのか、薄ら笑いで神楽を眺めた。
「なに、お嬢ちゃん?俺もう謝ったんだからさっさと立ってどっかいけば?そこにいると邪魔だよ?」
ザコ2がそれに便乗する。
「おい、ズボン穿いてんだから男だろ。細っそいしちっせーが」
ゲラゲラと耳障りな雑音が届く。といっても、その声は神楽まで伝わっていなかった。

お嬢ちゃん
細い
小さい


地雷を3つ一気に踏んだことにもコイツらは気づかない。
「潰すアル…」
「え?何か言った?」

神楽はにっこりと、母親似――否、兄似の笑顔を見せる。
「殺してあげるヨ」



次の瞬間、男はこの近距離で神楽を見失った。
「え、」
ヒュッと右で風切り音が聞こえたと思えば、茶髪が数本ハラリと空を舞った。
戦慄を覚える暇もない。
何が起こっているのか分からない間に、頬に一瞬ピリリと痛みがした。
男は恐る恐る、頬を触る。頬を赤い血が流れ落ちていった。

「……ヒッ!」
胸ぐらを掴まれ宙に浮いてやっと、男はそれをやったのが神楽だと認識したらしい。
「す、すいませ…」
「今更謝罪アルか?」
クスクス男を持ち上げながら神楽は微笑した。
左手で男を持ち上げながら、右手に拳を作る。



それをぶつけようとした寸前のところで、目の前に何かが差し出された。
よく見るとそれは特盛ラーメンである。
「その辺にしないと、伸びちまうぜィ」
「サド…」
あっさりと戻ってきた理性に少し驚きつつ、神楽は男を離した。
いつもなら誰の声も聞こえない。徹底的に潰すまでは。
男とその連れは、涙目になりながら食堂を去っていった。


もともと座ろうとしていた席に、今度こそ腰かける。
「ったく、あんな無駄に殺気だすな。何事かと思ったろィ」
あきれた様子で沖田も腰かけた。パキリ、と箸の割れる音が小気味良く響く。
「だってアイツらが…」
ずるずると啜った麺は少しだけふやけていたが美味しかった。


「あんなザコにお前が相手すんの…面白くない」
複雑そうな表情で、沖田もラーメンを啜る。
「次から気を付けるアル」
「そうしろィ。……おい、お前手どうした」
手?…あ、腫れ上がってる。
「多分、アイツに突き飛ばされた時アル。なんかごっさ右手痛かったネ」
「マジでか。もう少しあとに行きゃあ良かったか」
「別にこれくらい平気ネ」
「体が強くたって、怪我は怪我でィ。良いわけねェ」

まぁ、別にお前が良いなら関係ねェけど。と、沖田は付け足した。


あんな壊れかけた俺を見ても、心配してくれるんだ。そう思うと、心臓がズキリと痛い。
分かってる。分かってるんだ。友達…いや、好敵手だろうか。好敵手の心配をしてるだけ。それだけ。
素直じゃないが、いい奴だ。
…いい奴だから、俺は。


神楽はさりげなく沖田を見た。
自然な栗色って、コイツじゃないか。
さらさらとしてる細い髪に整った顔。そして強さ。
同じ男としては悔しい程良くできた野郎だ。少々性格に難はあるとしても。
あまりジッと眺めすぎたのか、沖田が顔をあげた。
目があう。また、ズキリ。

「何見てんでィ」
「え、や、別に…」
「嘘つくな。なくなったラーメンを指がむなしく探してるぜ?」
何の事かと手元を見ると、カッツンカッツンと箸が虚しく皿を叩いている。
「じゃあ、行くか」
沖田が皿を持って席を立った。
「え、どこにアルか?」
「どこって…保健室」
「あ、そうだったネ」


神楽も立ち上がる。
自分が忘れたのに沖田が気にしてくれていたのが、嬉しかった。



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