人工呼吸カウント

キャラ崩壊注意
沖田がごっさアホです。







***


「……っ、あ!」
艶かしい艶やかな声が室内で響く。
「我慢してねェで素直になりなせェ」
「い、や…アル…っは!」
水音とともに出される声は確実に沖田を追いやっていった。
不安へと。

「……ごぼぼっ!」
「うわっ、大丈夫かィ!?」

普段の沖田なら絶対にしない心配をしたのは多分無意識だろう。
本気で水面から出て来なくなった神楽を救うため、沖田は慌てて水中に飛び込んだ。


***
見慣れた3zの教室。

「なーチャイナ、土曜日って暇ですかィ」
「暇じゃないアル」

あっさり斬って捨てられたなけなしの勇気が地面にポトリと落ちた。
「……ちなみに用事って何でさァ」
なんとか心に自己修正をかけつつ、隣の席のチャイナこと神楽にもう一度声をかけた。
「姉御達とプールに行くアル!」

にっこりと、嬉しそうに笑う神楽。普段なら見られないその笑顔が、沖田には真夏の太陽の数倍輝いて見えた。
「摂氏40度……地球温暖化……」
あまりの眩しさに一瞬目を逸らす沖田の口から意味不明な単語が並んだ。そんな沖田を可哀想な人を見る目で神楽は容赦なく貫く。


だがやがて正気を取り戻した沖田は急に勝ち誇った笑みを浮かべ、神楽の額にデコピンをうった。
「残念だったねィチャイナ!その日は偶然!偶然、俺らもプールに行くんでさァ」
「デコピンの必要性が分からなかったアル!」
神楽が額を擦りながらギッと睨むと、沖田はいつもとなんら変わらない笑みを見せた。
「デコピンをするのにそもそも理由なんていらないだろィ?」


にや、と相手が苛立ちを覚える最高のタイミングと表情。これが沖田のいつもの笑みだ。対し神楽は表情を憤怒へと変えていく。
「この…真夏にっ、お前なんかと喧嘩するだけ」
「無駄無駄。本当、神楽サンの言う通りでさァー」
ぐしゃぐしゃと神楽の頭を撫でると、ぶつり。そんな音がした。

「ぅらああああっ!!」
「おおっと、っぶね」

ドンガラガッシャーン。まさにそう表現するに相応しい光景が、平和なはずの教室でまきおこる。
憎たらしい沖田の態度が、神楽と一緒にプールに行けるからだと知ったら沖田のイメージが変わる者が沢山いたかもしれない。
しかし3zの生徒は皆、そんな心情など分かりきっている事だったのでため息を一つして教室から避難するにだけだった。



そして土曜日


***
プールに入る前の待ち合わせ場所で、二人は鉢合わせた。
嫌な者を見てしまったとばかりに神楽は目を逸らす。

「うげ、本当にいるアル」
「いて何か悪いか」

「悪いアル不愉快指数が上昇していくネ」
「俺は愉快指数が上がるねェ」

さらにからかおうかとした瞬間、ポケットに入っている携帯から着信音が鳴った。

「…土方さん?」
ディスプレイに光る『クサレマヨ』の文字を視界に入れながら問うと、何故だか気まずそうな声が聞こえた。

「あー…。あのな、総悟。今日近藤さんが…あー。急にカラオケ行きたいって言い出してな。あーそっち行くことに…なったから。お前、チャイナと泳げ」
ちなみに無意味に3回もあーと言った土方は嘘が下手である。
「で、そっちに姉さんたちもいるんですね」
姉さんとはお妙の事だ。自分とほぼ同時に隣から着信音が聞こえれば嫌だろうと予想がつく。


土方も、自分が嘘をつくのが下手だと分かっているのだろう。騙すのをあっさり諦めてため息をついた。

「ああ。こっちにいるコイツらの余計なお節介ってヤツだ。少々気まずいかも知れないがくれぐれも――ブツッ」

なにか長くなりそうな気配がした沖田は躊躇う事なく通話を切る。隣の神楽を伺うと、絶望に打ちひしがれた虚ろな瞳で地面のタイルを眺めていた。
口は「酢コンブ酢コンブ酢コンブ酢コンブ…」となにかの呪いのように酢コンブを繰り返している。


…そんなに嫌か…。
心にものすごいダメージを負った沖田は無理やり頭を振って気持ちを切り替えた。
お節介とはいえ一応沖田の踏み出せない感情を見抜いて気を使ってくれたんだ。モノにしねぇと。


「チャイナ」
「あ?何アルか」
夏の空より青い瞳が沖田の顔を映す。

さあ言うんでィ。
“一緒に泳ごう”
「いっ…」
「い?」
「い…」
身体中の血液が顔面に集中したような恥ずかしさに脳が混乱する。

「いっ、いいつまでこんな処に突っ立ってるつもりでィ!暑いんだからさっさと泳ぐぞ!」
「えっ、ちょっ」
何か言おうとする神楽を遮るようにその小さくて白い手を引いた。あまりの柔らかさにドキッとしたのは伝わっていなければいい。



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