秋桜に淡く
いつもの公園いつもの時間いつものベンチで。
「なぁ沖田」
「ん。なんでィ」
ベンチに腰かけている神楽と沖田。神楽は沖田の奢りで買ってもらったココアを、沖田は茶をそれぞれ飲んでいた。
沖田は秋の色に染まった空を眺めた。夏より薄い水色の空に、薄い雲が伸びる。
神楽がふと、何かを思い出したかのように口を開いた。
「…好きアル」
「ぶっ!!」
沖田は盛大にお茶を吹き出し、息を吸って茶を気管に詰まらせ咳き込んだ。
「な、んでィいきなり」
「別に。何となくヨ」
なんだそりゃ、と神楽を見る。そして神楽の表情に思わず見入った。
ココアを小さく両手で包み空を見上げる神楽の顔は、いつもと違う、大人びたもの。
「お前は……、いや、…これは勝手アルな」
…秋はどうして、いつもと何も変わらないくせして少し切なくさせるんだろう。
何も変わらないはずなのに変わっていくのを意識させるんだろう。
すっかり忘れたはずのものを思い出すんだろう。
沖田と同じ栗色の落ち葉は、自分の姉を頭によぎらせた。
もしかすると神楽もそうなんだろうか。
何かを感じて
何かに焦って
何かを、思い出して。
「チャイナ…お前は、ずっとここにいればいい。なんなら俺の傍にいたって」
いや、むしろずっと。その欲は今は言わないでおく。
「……エスパーか。お前」
神楽は悔しそうに、けれど嬉しそうに笑った。ほころび出すその周りだけは、秋ですらかなわないと沖田は思う。
「チャイナ」
「何アルかー」
「抱き締めていいかィ?」
「ぶっ!」
神楽はココアを盛大に吹き出して、気管に詰まらせ咳き込んだ。
いつもと変わらない時間
いつもと変わらない場所
少し違う二人の考え事も
結局一緒で変わらない。
そう思うことは
そうして欲しい事。
沖田はその切なさを、寂しさを、その昔の傷を包むように神楽をゆっくり抱き締めた。