逆効果アイスクリーム

苛々するのは、珍しく隣の沖田のせいじゃなければ授業にやる気のない銀八のせいでもない。
つい、ガラ悪い不良みたいな目付きで、担任を睨んでしまう。

神楽はぽつりと呟いた。
「…あ、つい」
そうなると止まらない。
「ああ」
つっぷしながら沖田が答える。
「あつい」
「ああ」
「あっつ、い!アル!」
「…ああ」
沖田も相当暑いのか、適当な相づちしかうってくれない。
「ああっつー…」

怒鳴ろうとした瞬間、チャイムが鳴った。
銀八が教室から出て行く。いつもなら最後まで見送るのだが、今日はそんな余裕も無かった。


うだるような暑さ、というやつだろうか。7月からこれなんて、先が思いやられる。
教室へ入ってくる風さえぬるい。
「チャイナ、チャイナ」
「…何アルか。私今お前に付き合ってる暇ないアル」
さっきまで不機嫌全快だった沖田のテンションが高い。
「これを見ても、同じ事が言えるかねィ?」
「これって…――ッ!!」
神楽の反応に満足したのか、沖田は勝ち誇るように、その冷気漂う物体、夏には必要不可欠であるそれ……アイスを振って見せた。


「な、ぜそれを?」
「この間、保冷用バック貰ったんでィ。そん中に氷とアイスをビニール袋に詰め込んで入れた。だから溶けてないんでさァ」
得意気に笑う沖田を見ずに、アイスに釘付けになる。
「で、それを私にくれるアルか?」
「ああ。その代わり俺も食べる」
「もう一本あるアルか?」
「ない」
神楽は首を傾げた。目の前にあるのはソーダ味の棒のアイス、それ一つだけだ。
「途中までアンタが食えばいい」
「あ、そうアルな」
沖田が袋を開ける。
とてつもなくアイスが輝いて見えた。
「ほい」
「ありがとアル!」

渡されてすぐ、一口口に含む。
「んん〜!美味しいアルゥ!」
スッキリとした甘さと冷たさが、口の中で溶けた。
「そいつァ良かった」
にっこりと笑う沖田を、神楽はやや不振に思った。
眉をひそめて尋ねる。
「お前がこんなあっさり、うまいモンを私にくれるなんておかしいアル。何か裏がアルあるか?」
「さぁな」
爽やかな笑みがどす黒く、背後におどろおどろしいものが見えた気がした。
「なにか企んでるアルな」


いいながら、ついアイスをまた含んだその瞬間。グイ、とアイスの棒を掴んでいる手首を、沖田の方に引っ張られた。その手首が熱い。
神楽が口を離してすぐ、沖田がアイスにかじりつく。

驚いている神楽と、沖田の視線が交差する。
ドキ、と心臓が鳴った。
なんだろう。なんだか凄く恥ずかしい。


やがて口を離し、神楽を見て嬉しそうに笑う。
それにまた心臓が鳴った。冷たい物を食べたのに、熱い。
沖田はそっと神楽の唇に触れた。
そして一言。




「間接キス」
貰った、と。


「……――っ!」
ガタタタッと机が鳴ったが気にすることも出来ず、神楽は逃げた。
アイスを食べる前より数倍暑かった。




***


神楽がいなくなった教室。
にこやかにアイスを食べる沖田に、土方が苛立ちを抑えずに叫んだ。



「暑ィよこの、クソバカップル!」




もっともだ、とクラスのほぼ全員が思ったという。
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