*

「ここが私達の部屋アルか?広いアル!」
キラキラと目を光らす神楽は、笑顔で沖田…ではなく、妙の手を引いた。
「ホントに広いわね」
「まあ、これで寝る分には困らないと思いやす」
沖田は色々複雑だった。
妙を巻き込んでしまった事による近藤さんの気苦労が増える事や、土方がうるさそうな顔をするだろう事。


しかし一番気になるのは、どうして戻ってきたんだろう、ということだった。沖田は神楽を追わなかったし妙は本気で連れ帰そうとしていた。
つまり神楽が何か言わない限りは帰っていた訳だ。
帰りたくないって、言ってくれたのかねィ。
それもこの三日間で聞こうと、沖田は心に決めた。


「じゃあ…すいませんが俺ァ見回りに行くんで。チャイナも連れて行きやす」
「え、それじゃあ姉御が一人になるヨ!姉御も…」
心配そうな顔をする神楽に、妙は笑顔を見せる。
「大丈夫よ神楽ちゃん」
「そうとも!こんな時こそお妙さんのナイトがいるんですから!」
どこから沸いたのか気づかない間に妙の後ろで近藤が得意気に笑う。妙は無表情で近藤の顔に裏拳を入れた。


「ぅぐああ!目が!目があああ!」
「ってな感じでストーカー退治も出来たし、大丈夫よ。いってらっしゃい」
苦しむ近藤をサラリと無視し、妙は神楽を見送った。後ろ髪引かれる様子の神楽の手を引く。
「行くぜ。ほら」
「あ、ちょっと!待つアルサド!」



***


「姉御…大丈夫アルか?」
「あの人なら絶対大丈夫でさァ。手出ししたら切腹モンでィ」
二人で見回りルートをたどる。真選組の男とチャイナ服の女、それは、はたからみれば異様と言わざるを得ない光景だろう。
せめて手が繋がっていれば…もしかすると幾分は……彼女なんかに見えたかもしれないのに。


非常に不本意ながら現在二人は手を繋いでいない。
神楽に外されてしまった。手の一つや二つ、減りやしねェのに。
「おい、二つ減ったらもうないアルヨ」
「あれ、口に出してやした?」
「気持ち悪いくらいにナ」
「じゃあ手を繋げば両手も揃って万事解決でィ」
「繋がなかったら取る気アルかお前!」
さらに神楽が遠のく。しまったしくじった。


「あー冗談でィ。繋がなくていいから、せめて隣に…」
スッとその場の雰囲気が変化した。神楽と沖田が身構える。
すると図ったようにバラバラと十数人の攘夷浪士が二人を取り囲んだ。


「真選組隊長の沖田総悟だな」

「だったらなんなんでィ」
沖田はすぐさま場所の確認をする。ここは河原沿いの歩道。河原に降りれば一般人に被害はない。
ずるずると、少しずつ川沿いに足をずらす。
「天誅を下してやる!幕府の犬め!」
どこの連中か知らないが、桂や高杉の一派じゃない事は、行動の浅さから伺える。
沖田は川沿いに降り、刀を抜いた。
攘夷浪士が慌てて河原を降りる間に、聞こえないように呟く。
「チャイナ。アンタはその川の向こうに逃げろ。俺が引き付けといてやりまさァ。ありがたく思いなせェ」
「な、サド!?」
一緒に戦う気満々だった神楽は目を剥いた。

沖田は舌打ちをした。
よりによって好きな奴とデート紛いの事をしている時に邪魔を入れるとは。


「無粋な野郎でィ」




たたっ斬ってやらァ。
沖田は目をギラリと光らせた。
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