まずは、帰りたい

*だから、繋ぎたいの続き



















いつもの河川を二人で通り過ぎる。
小川で魚がぽちゃんと跳ねるのを、神楽はぼうっと眺めていた。
繋がる右手の意味に、気付くことはなく。
ただ、離したくなかったから。
この感情は何?



「つきやしたぜィ」
いつの間にか見慣れた屯所の茶色い扉を通りすぎる。流石に離すだろうと思った手が離れない。
「お前、そろそろ手…」
「ん、何でさァ」
「離せヨ」
「何で?」
隣を見上げると、繋いでいることがさも当然であるかのような反応が返ってきたので驚いた。

その時、屯所から見覚えのある人物が歩いてきた。
特徴を略すとゴリラにそっくりなストーカー。
「総悟!帰ったか」
「近藤さん」
近藤は繋がれている手については何も触れない。
「近藤さん、予定通り、チャイナを3日間屯所におきやす」
「おお。頑張れよ総悟」
「…へい」
頑張るって何をだろう。何かの大会にでも出場するんだろうか。世界一ドS選手権?


「おい、別に大会に出るとか、そんなんじゃないからな」
「…お前、人の思考読めるアルか!?」
ぎょっとするとがっはっは、という近藤の声と、沖田の小さなため息が重なる。
「こういう奴なんでさァ」
「苦労するな」
「はい。本当ですぜ」
「オイ、話についていけねーダロ!なんの話アルか!」
「さぁなー」
言いながら、沖田は手をスッと離して私の頭に置いた。トン、と急に、胸が痛くてきゅっとなる。


「き、気安く触んなヨ!」
「さっきまで手ェ繋いで…」
「あれはそれ、これはどれアル!」
「……それはそれ、これはこれ?」
「そうとも言う」
「そうとしか言わねェ」
「挙げ足とりはモテないアルヨー」
ニヤリと笑って返すが沖田はさして気にする様子はない。
「もともと芋侍には縁のない話だしねィ」
諦めた、というよりはそれが当然だと考えている顔だった。それを見てふと思う。この顔なら、ムカつくがモテるだろうに。しかしコイツに好かれたら調教されそうだし、興味ないほうが市民のためになる。


神楽と沖田のやり取りを見ていた近藤が、なんだか嬉しそうに目を細めた。
「総悟。ちょっと俺ァお妙さんに会いたくなったから行ってくるな」
「おい、ストーキングも程々にしろヨ」
「これはストーキングじゃない。お妙さんのお妙さんによるお妙さんの為の警護だ」


ふっふーん、とのけぞってすぐ、ボクシングなら即KOだろう見事な右ストレートを受けて飛ばされた。
「おいゴリラァ。適当なことぬかしてんじゃねーよ。スプラッタにしてやろーかアアン?」
「…え、姉御!?」
屯所の敷地内に何故姉御?首を傾げると、構わずにお妙は私の手をとって沖田を睨んだ。


「神楽ちゃんを連れて帰ります」
「コイツは今俺のですぜィ」
「関係ないわ。さあ、行きましょう神楽ちゃん」
「え、ちょ、うおっ」
振りほどけないほど強い力で妙は私を引っ張って、屯所を抜けた。




「アネゴ!ちょっと待つアル!」
「何も待つことなんてないじゃない。あんな男だらけの所に放り込んで、銀さんは一体何を考えているのかしら!一発殴っただけじゃ気がすまないわ!」
今の台詞で、もう既に銀時が頬を紫に染めていることを伺わせた。


帰れる。それは喜ぶべきなのだろう。
それなのに神楽は、胸のもやもやが晴れないでいた。帰る。まだ、アイツがなんでこんな事をしたのか知らないまま。
知りたいのか。あのドSの考えていることを。
「…アネゴ、私、帰らないアル」
「え?」
妙はまさか神楽がそんなことを言うとは思ってなかったらしい。驚いたように掴まれた右手が離れた。


「アイツが…なんでこんな事したのか、分からないアル」
だから知りたいネ、と言外に含ませる。
「でも……やっぱり危険だわ。男だらけのところに神楽ちゃん一人なんて」
「それなら心配いらないヨ!部屋一人だし、私ならあんな野郎一振りでやっつけられるアル!」
むん、と腕を持ち上げる神楽を見て、妙が思い付いたように手を打った。


「分かったわ。…私も行きます」
「え?」
今度は神楽が驚く番だった。


***



意外にも最初、近藤は難色の意を見せた。
「でも、神楽ちゃんは泊めるのよね?」
しかし妙にベタ惚れの近藤が叶うはずもなく。
「近藤さん…お願いします」
涙目の上目使いにあっさりKOされた。



沖田はというと、なんだか複雑そうな顔をしていた。
「お帰り。部屋、案内しまさァ」
そのまま神楽の手を引く。慣れない上に姉御までいるせいか、顔が熱い。
妙は何故か、少し前の近藤と同じように目を細めていた。



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