何を言われたのか、数秒間理解出来なかった。

終わり。ヤツはそう言った。いつもと変わらない、ムカつくポーカーフェイスで。


目を瞑ると、昨日の光景がよみがえる。



『終わりって…なんだヨソレ…』
『いや、だから今までの決着を、次でつけようって』
『……アル』
『え?』


『そんなんだったら、アイスなんていらないアルっ!』

そのまま公園を逃げるように去った自分。
どうして沖田は急にそんなことを言い出したんだろう。
そして何より、どうして私はここまで辛いんだろう。内面から掬われるような不安に襲われる。

もう、本当に次で、…最後?



「どう、してアルか……サド…」



***




ソファーで呆然と寝転んでいる神楽を見て、銀時は内心苛立っていた。
なんで結婚の心配までしていたのにこんな変な流れになってるんだ。
明らかに双方、互いを意識していたのに。
神楽の前のソファーにドスンと座った。
「なあ、神楽。お前沖田くんの前で、なんか変なことやったんじゃねぇの?」
「……やって、ないヨ…。飽きたんダロ。きっと戦いに」


私に。そう言外に言っている気がした。
「土方の野郎と喋らなかったか?」
確か沖田くんは相当、アイツを敵対視していたはずだ。
すると神楽は心当たりがあったようで、質問の意味は分からないままに答えた。


「アイツの誕生日プレゼントを一緒に選ぼうとしたら、私その時顔赤くて。マヨは熱測ろうとおでこに手を当てたネ。丁度その時…アイツが通ったアル」
「…それじゃねぇか確実に!」
バカだコイツ!やっぱバカだ!なんっつーこじらせるようなことを…。
分かっちまえばこんな阿呆なすれ違い、蹴飛ばしゃ終いだ。


「神楽!」
「え?何アルか銀ちゃん」
ビシッと神楽を指差した。
「お前に指令を言い渡す!」





全く第1お父さん、どんな教育したらこんな鈍い野郎が出来上がるんですか?



***




アイスより俺をとってくれた。その事が嬉しかった。

『アイスなんていらないアル!』
そう言ったときのアイツはなんだか泣きそうで抱き締めたくなった。でもその役目は俺じゃない。
するとトントン、と襖を叩く音。「沖田さん。土方さんが呼んでます」
「山崎代わりに行って下せェ」
襖の外の影は動かない。
「そう言われたらこう言えと…。‘チャイナ娘の話だ’」
断ることまで見抜かれていたのが面白くなくて、チャイナの話なら行くと見抜かれていたこともまた面白くなかった。だから舌打ちで立ち上がって、乱暴に襖を開くと、そこにはもう山崎の姿はない。


畜生、うちは聡いやつばっかりか!


***



「つまり、土方さんはチャイナなんか別になんとも思ってない、と」
土方はタバコの火を着けた。
「ああ。あれはたんにチャイナ娘の顔が赤かったから」
「本当に、ですかィ」
「間違いなく、な」
土方は吸ったタバコを吐いた。
「じゃあなんであんなとこに二人でいたんですかィ」
二人で一緒に買い物なんて、めったにあることじゃない。


「…偶然、チャイナ娘が通りかかって、どっちのマヨネーズにするか迷って、た」
「それならあり得ますねィ」
「信じんのかよ!」



「なら、……俺は、」
とんでもない早とちりをした挙げ句、勝手に終わりを告げてきたってことになる。それってただのアホじゃないですかィ!



「ちょっと…見回り行ってきやす!じゃあな犬の餌!」
「然り気無く失礼なこといいやがるな!」


俺は走り出した。



会ってどうする?なんて頭に入らなかった。




***
私は気乗りしないまま、駄菓子屋へ来ていた。銀ちゃんが唐突に甘いもの食べたいと言い出したからだ。
自分で買って来いヨ。そう言うと、酢コンブ買ってもいいと言われた。
だからここまで来ている。アイスが目の先にチラリと入って、この間おごってもらったアイスやら、傘で隣だった黒を思いだして目頭が暑くなった。



それを無理やり振り切って、お菓子に意識を持っていく。
甘いもの、甘いもの…。
その時私の目にぱっと入ってきたお菓子を手に取り、酢コンブをとって買った。

はぁ、と思いため息をつく。足は自然と、公園へと向かっていた。
昨日座った椅子に、一人で座ると、堰を切ったように涙が溢れくる。
声を洩らした。小さく小さく。
「…っ、く。馬鹿…サ」
「チャイナッ!」
公園に響く強い声。
顔をあげるとほぼ同時に抱き締められた。

「な、ちょっ」
強く強く、痛いくらい抱き締められる。余裕がないみたいに。混乱しているのに涙は止まらず溢れてきた。
「悪ィ。悪かった。だから泣くな。最後なんて言わねェから」
「…。銀ちゃんに言われたアル。サドに会ったら‘勘違いだよ’って言えって」
涙が沖田の隊服に吸われていく。
「分かってる。チャイナ、なんでアンタは泣くんでさァ」
「知るかヨ。お前が私とのケンカに飽きたと思ったら、辛かったアル」

だんだん涙は止まっていった。それでも腕は緩まない。影のベンチの前で、なんで抱き締められてこんなに胸が苦しいアルか?
「サド。苦しくないのに、心臓が苦しいアル」
これは何アルか?
すると腕が少し緩んだ。見上げると、降りてきた整った顔と濡れた赤い瞳。


「それはアンタが…きっと」
チュ、と小さな音がした。目を見開く。




「俺に惚れてるからでさァ」

もう一度抱き締められて、今度は別の暖かいものが、心から溢れてこぼれた。





本日7月7日。
誕生日まであと1日。
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