反応が遅れる…所の話じゃなかった。体が動かない。光景を、能が無視したせいだ、多分。
俺がその後とった行動は迅速だった。




***



「山崎。茶」
「自分でとって下さいよ」
「ああ?」
「すいません」
俺は屯所でゴロンと横になっていた。空は雲が灰色に染めている。心情を表すなら、まさにきっとこんな色だ。


顔の赤かった神楽と、その額に手を当てている土方。その光景に、俺は無言で通りすぎた。否、通りすぎる事しか出来なかった。
動揺と混乱と、もやもや……腹ん中で煙が燻ってるような、そんな感じがつきまとい、離れない。
取り敢えず土方を抹殺しよう。うんそうしよう。
「恐ろしいこと言わんで下さいよ隊長…。」
「あれ、口に出してやしたかィ」
「思いっきり出てましたよ。」
山崎が身を震わせツッコミを入れる。しかしその手はきちんと動いて無駄がない。


「なぁ山崎」
「はい?何ですか隊長」
「惚れた腫れたって、憎らしくていつか殺ってやりたいと思う奴にも感じるモン?」
「ぶっふぉわ!」
俺の質問に対し、山崎は激しく咳き込み、書類をお茶まみれにして返した。
「汚ったねー」
「誰のせいですかっ!………惚れた腫れたって、それ隊長の話ですか?」
「……悪ィか」


まあ、実際にそうなのかは怪しいところだ。
ただ、仲良くしている光景に心臓が痛いのは、そういう事になる気がして。
「そうですね…。相手を殺したいほど憎んでたって、いざそうなっちゃったらそれは関係無いんじゃないですか?好きなら好きだし」
「そっかそんなもんか」
あっさり。でも俺は、まだ信じきれていない。
だって散々戦ってきた、いわば悪友、ライバル、好敵手だというのに。



「それでも、男と女だし、その喧嘩の間に芽生えたのは敵がい心だけじゃなかったって、事ですよ」
「人の脳内読むな」
「いやだから、ただ漏れですって…」
俺は灰色の空を視界から退かす為に、一度目を瞑った。瞼の裏に現れたのは蒼。空よりも青い青だ。



「ちょっと、出かけてくる」
「はいよ」



確かめる為に。



***


公園に丁度良く、神楽はいた。傘をささずに空を見上げている。
体が少し熱くなった。ドクン、と強い鼓動が体を巡り、心臓にやんわりと痛みを感じる。


「チャイナ」
「サ、サド!どうして…」
神楽は驚いたのか目を見開いた。青い瞳が自分を映す。
「どうしてって…見回りだからだろィ」
「私服アル」
しまった着替え忘れた。

「あー…そんな時もあらァ」
調子が狂う。そんなのきっとコイツのせいだ。
「素直に忘れたって、言えばいいネ。バーカ」
ふっと神楽の頬が緩んで、小さく笑う、その笑顔を見て確信した。



ひしひしと感じる程、俺はずっと、こいつに惚れてたんだ。


…でも。



きゅっと口を結び、神楽の隣に腰かける。
「なあ、今度また、アイス食わねェ?」
「食べる!食べるアル!」
「戦って勝った方が高いの食えるデスマッチにしようぜ」
「食べ物がかかった勝負で、私は負けないヨ!」
むん、と両手をグーにし、闘志をむき出しにする神楽。…やっと、いとおしいという感覚を知ったのに。掴んだのに。
「バーゲンダッシュで勝負アル!」
「ああ。…その代わり」
「ん?」



俺は神楽の青からも、目を逸らす。




「その代わり、勝負はそれで終わり。もうここで戦うことも…止める」
「………え?」


ぎゅっと目を閉じると、昨日の赤くなった神楽を映しだす。
胸を短剣で突き刺されたような痛みに、俺は拳に力を込めて耐えた。



好きだから、叶わないなら、きっとコイツの邪魔をしてしまう。
いくら俺がSといっても、それくらいは避けたい、俺なりの配慮のつもりだ。


驚きに満ちた瞳が、俺を捕えている。







まだコイツの傍にいたいと、体は全身で訴えていた。






本日7月6日。
誕生日まであと2日。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -