その日、私は誕生日プレゼントをどうするかを考えずに、ソファに寝転がってだらんとしていた。



昨日の、あの変な心臓の高鳴りと沖田の顔が思い出され、そのたびにまた心臓が軋むの繰り返し。
戦っても戦っても、今までそういえばあんな風に押し倒された事はなかった。
ごつごつとした手は、刀を握っているせいかマメが沢山あって固く、それに熱くて大きい。
そしてあの、太陽みたいな強く赤い瞳……って。



「うっがあああああ!!」
ボスンボスンとソファを殴る。
なんかこう、内側からくすぐられてるようなスッキリしない感覚。
「あああ―…何だヨ、コレ…」



「どうした神楽。うっせーんだけど。ババァから苦情くんだろ」
「銀ちゃん…」
頭をぼりぼり掻きながら、銀時がイチゴ牛乳をとぽとぽと二つのコップに注ぐ。
「ほい」
「ありがとアル…。……あのネ銀ちゃん、私病気かもしれないヨ」
「病気って、どっか悪いのか」


「急にふわっとなったと思ったらむずむずして、そしたらぐわーって叫びたくなるアル」
「…すまん神楽。擬音だらけで全然分からん」
「でも上手く表現出来ないヨ。サド病アルか?S病アルか?」
銀時の表情が変わって投げやりになった。
「S病でその擬音て、なんだ。お前ソレ恋の…」


銀時がいいかけた途中で、ジリリリリンと電話がなった。タイミングが悪い。
座ってじっと考える。
S病で今の擬音でこい…鯉?
「あ?なんだオメー…………あ、なんで俺。…チッ。……ああ、分かった」
がしゃんと子機を置く音がやや乱暴で、ぱっと顔をあげると、銀時の顔が二割増し不機嫌になっていた。
「神楽、依頼だ」
「依頼?どこアルか?」



「これからある場所にいって、金を受けとる。その金で、指定されたものを買ってきてくれってよ」
「私が行くアルか?」
「ああ。…場所は、江戸の街にある雑貨屋だ。俺ァ別の依頼があっから頼む」
正直あまり今日は外に出たくなかったが、依頼ならしょうがない。私は立ち上がって傘を掴んだ。



***


行ってくるアル…。とやや元気のない神楽を見送った後、銀時は銀時専用の椅子に座ってジャンプを手にとった。本当は銀時のほうに依頼なんてない。


先ほどの電話での会話を思い出す。
『旦那ですかィ?何か今、すっげー電話しなきゃ行けない気分になったんでかけました』
少しぞっとした。まさに今、神楽に恋の病なんて言おうとしていたから。
でも、神楽が自覚したら助かるのは沖田くんのはずなのに。


『…で、どうやら土方さんがアンタに連絡があるらしいんでかわりまさァ。…あ、くれぐれもチャイナに変な事言わないで下せェよ?』
最後の最後に殺気の籠った声を聞いた。恐ろしい野郎だ、本当に。


『…万事屋か』
「ああ」
『…これから、テメェんとこのチャイナ娘を、江戸の街にある雑貨屋に誘導さしてくれ』
いきなり単刀直入にきり出した土方は苛立っているのか声がやたら低い。
「あ?何で俺…」
『総悟に渡すモノを、アイツに選んでもらう。…余計なおせっかいだよ全く、近藤さんは』
「チッ。…ああ、分かった。」
『頼んだぞ。あと、総悟には秘密にしてあるから、街で会っても言うんじゃねェぞ』
電話は一方的に切れた。
何様だあの野郎。



相変わらず真選組のトップはゴリラのくせに人がいいな。
人の恋路なんて、黙って見てりゃあいいっつーのによ。
『ねぇ銀ちゃん…コレは、』

神楽が沖田くんと同格なのは格闘においてだけじゃないようだ。鈍すぎるだろ。



おーい第1お父さん。
はやく帰って来ないと自分の娘のウェディングドレス見る羽目になんぞー。


そう考えながら、なんとなくその時は俺も神楽の隣を歩いて沖田くんに渡すのかなと思いへこんだ。



完璧お父さん気分じゃないか、俺。


***



私は言われた通り、指定された店へと入った。すると、見覚えのあるマヨネーズ…じゃなく土方が壁にもたれ掛かって煙草をふかしていた。どうやら依頼は真選組の何かのようだ。それなら銀時の不機嫌ヅラも納得がいく。


「おい、マヨネーズ」
「マヨネーズじゃねェよ土方だ」
「さっさと買うモン言うヨロシ。こちとら今だるいアル」
「風邪か。熱あんなら今度でいいぞ」
土方は煙草を潰す。
隊服を見て、思い出したくない野郎を思い出す。
うう、お前は私の脳内から消えるヨロシ!


「だ、大丈夫アル」
「でも顔赤いぞ。熱あんなら帰れよ」
熱いのは、アイツのせいで風邪じゃない。二、三回深呼吸を繰り返し、頬をペチンと叩いた。
「大丈夫アル。で、サドと何の関連があるネ」
「お、察しがいいな。悪いがアンタにゃあ、総悟の誕生日プレゼントを選んで貰う」


「何で私が…。アイツの欲しいモンなら、お前らのが知ってるはずネ」
「アイツの欲しいもんは分かる。が、そりゃあ本人も気づいてねぇし、何よりまず物じゃねぇ」
物じゃない?まさか、人権でも貰いたいんだろうか。本格的に飼い慣らし?
「まあ、だからアンタに選んで貰いたい。出来ればここで。色々揃ってるしな」

どうやらそれを言うためにわざわざ来たらしい。
踵を返す土方を、慌てて呼び止めた。
「待てヨ!私一人じゃ決めきらないアル!」
「俺だって暇じゃねェんだよ」
「頼むアル。アイツの事ばっか考えてたら、頭おかしくなるヨ…」
プレゼントの間中ずっと、沖田の事なんか考えてたら病気が進行してしまう。きっと。


「おい、本当に熱あるんじゃねぇの。顔が…」
土方が神楽の額に手を当てた。その時。



「チャイナ……と、土方さん?アンタら何やって…」
声だけで、誰か分かる。少し子供っぽい声。
あれ、また心臓痛い。「……げ」
土方の顔がみるみる真っ青になった。
沖田を見ると、表情ごと固まっている。動かない。
「……?」






雲行きが怪しくなっていることに、私は気づく事が出来なかった。






本日7月5日。
誕生日まであと3日。

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