昨日の神楽の行動は、明らかにおかしかった。
それにあの万事屋に、シークレットサービスなんてもんがある訳がない。

…しかしあの“っ、ひゃ!”という神楽の悲鳴にナニを…違った何を思った訳じゃない事は、ここに宣言しておこう。

あれは神楽が急に悲鳴をあげたから驚いた。うんそれだけ。遠くに逃げたのは……足下にピーが落ちていたから。
ピーはアレ、セルフサービスでさァ。


そんなこんなで決してうぶなんかじゃない俺は、今日も真面目に見回りをしている。…公園から駄菓子屋までの。


風がふわりと舞う、その風がぬるい。
7月に入って急に暑くなった。髪が少し肌にまとわりつくのが鬱陶しい。
黒い隊服と太陽はどうやら相性が悪いようだ。


駄菓子屋につく、その数歩前で足が止まった。
洒落っけのない、紫の番傘。それと珍しいオレンジの髪。
俺は変な高揚感を覚えつつ、近づいて後ろから耳元で叫んだ。

「クソボケ似非チャイナ!!」
「ぎゃっ!……げ、サド」
「げって…それはこっちのセリフでさァ。買わないなら邪魔だからどっか行きなせェ」
口喧嘩から始めなかなきゃどうすればいいのか分からない相手なんてコイツくらいだ。

「買うアル!買うけど…決まらなくて…」
目を逸らすチャイナは、どうやら珍しくも酢コンブを買う訳じゃないらしい。
チャイナも少し、髪が肌にくっついていた。暑そう。

「アイス食う?」
「え、奢りアルか?」
「なんででィ。奢る訳ねーだろーが」
「……チッ。こっちが誰の為にわざわざ暑い中こんなとこに来てると思ってるアルか」
「ん?なんか言ったかィ」ぼそぼそと下を向いて喋ったせいで聞き取れなかった。
「何でもないアル」


チャイナにまとわりつく髪がやけに気になる。
「で、どれにするんでィ」
「は?」
「だから、アイス」
「買わないネ。おちょくってるならケンカ買うアルヨ」
「…今から公園に行くんだけど、暑いから傘半分貸しやがれ」
「成る程、対価アルな」
納得したように頷く神楽になんとなくムッとした。暑いせいだ、多分。


「いやならいい」
「いる!いるアルバーゲンダッシュ!」
「ちゃっかり高いの奢らせようとすんな」
「チッ。そんな時だけツッコミやがって」
そう言いつつ、神楽はソーダのアイスを手にとった。さりげなく同じのを選び買って、いざ傘に入る段階で躊躇した。平日の真っ昼間にしかも晴れで相合い傘…いや、自分から言ったのだけれど。


神楽が不審そうな表情をしたので、何でもない風を装って傘を持つ。
「……ない」
神楽がうつ向いてなにかを唱える。
「…背に腹はかえられないアイスの為アイスの為アイスの為背に腹はかえられ…」
無言で神楽の頭にチョップを落とすと睨まれた。
「アイスやんねーぞ」
「だから我慢してるダロ」
「あっそ。…暑い」
パタパタと手で仰ぐがたかが知れている。
「その服は暑いダロ。バカアルなぁ」
ばかにするように、というよりはコロコロと笑う神楽に、なんだか…より一層暑くなった気がしたが、きっと、気のせいだ。


***



バカにしたつもりなのに反応がかえってこなかったので少し見上げると、沖田の顔が赤かった。そんなに暑いのか。


「公園、ついたアルな」
「ああ。あそこ影だし、座るか」
日陰のベンチに二人、腰を下ろした。普段ならあり得ないよな、こんなの。
差し出されたアイスの袋を開く。ひんやりとアイスの冷気が漂った。
「うひゃ、冷たいアル!」
「そうだねィ。でもうめー」
「暑い日はこれに限るヨ」
「だねィ」

その後二人、無言でアイスを食べた。冷たくてスッとして、本当美味しい。
空と比べると、アイスより空が青かった。やっぱりもうすぐ夏だ。



しかし駄菓子屋でプレゼントという案は却下かもしれない。コイツは金に余裕があるずだから、食いたいモンはあらかた食っていやがるんだろう。あ、ムカつく。
「サボりドS警官の癖に」
「あ?何か言ったかィ」
「別に。…あの、サド」
直接聞けるならそんな楽なことはない。しかしバレないようにしなければ。たしか言っちゃいけないと言われたし。


「お前なんか、ひちゅじゅっ……!」
必需品、と言おうとして噛んだ。
「ぶはははは!バカじゃない?赤ちゃん?赤ちゃんですかィ?」
「なっ……!」
畜生腹立つ。やっぱ誕生日プレゼントなんて止めようかな。
悔しくて睨むと、沖田の髪が汗で顔に張り付いていた。
「お前、髪が…」
ふっと沖田の頬に手を伸ばす。やたらと綺麗な顔が驚いたように肩をビクつかせた。
「…っ、ちょ」
「髪をとるだけアル」
動揺してる姿が面白くて、わざとゆっくり時間をかけて髪に触れた。
「早く……しろィ」
「そう言われると早くしたくなくなるものヨ」
にやにやと笑うと、沖田にいつものサド顔が戻ってくる。


「…そう言うアンタも、髪くっついてるぜィ」
「な、!」
触れていた手首を掴まれて倒された。
「だてにサディスティックと呼ばれてる訳じゃないんで」
形勢逆転。慌てて起き上がろうとするが押さえつけられていて身動きがとれない。
それより何より――、不本意だがこの体制に何故か動揺しているようだ。こんなの日常茶飯事のはずなのに。


「おいサド、…この体制は子供の教育上、あまりよろしくないアル」
あまり効果は期待せずに反応を伺うと、さっきまであんなに余裕そうだった沖田はピタリと固まった。
「な、…いや、別にそんなんじゃ」
「とにかく、早くどけヨ!」
押し退けると、今度はあっさり身を引いた。心臓がバクバクとうるさい。



「サド、アイスにはお礼を言うアル。じゃあな!」
昨日の逆みたいに、私は徒歩(と言うより競歩)で公園を逃げた。


なんでこんなに暑いアルか。
なんでこんなに心臓うるさいアルか。
なんでいつの間に、アイツといるの嫌じゃなくなってるアルか。



ぐるぐる混乱した頭で考えても出ない答えは、全く別のものを産み出した。




何が欲しいのか聞き忘れた!







本日7月4日。
誕生日まであと4日。
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