綺麗とかわいいとパンチ

「……よし」
呟くと、神楽は闘志に満ちた表情で扉を開けた。




覚悟しろヨ沖田総悟!



***




事の発端は昨日のお昼休みに遡る。

私には必須のお昼ご飯の時間。目の前に座る姉御を見て、少し小さく息を吐いた。
「姉御は凄くキレイで羨ましいアル」
「あら、神楽ちゃんだって可愛らしいじゃない」
「可愛いじゃなくてキレイでおしとやかになりたいネ」
ふぅっとため息をつくと、あやめがオーバーなリアクションで言った。
「あーら神楽さん、あなたそんな事考えていたの?何よ、銀さんがいくらナイスバディな女が好みだからって!」
「違うアル」


「じゃあどうしたんだ?」
眼帯をつけた九ちゃんが、心配そうに神楽をのぞきこんだ。
「…別に、理由はないヨ」
「女の子なら誰しも、一度は考える事よね。」
にっこりと笑われて顔が火照った。姉御には、きっと本心を見抜かれている。

「チャイナに綺麗なんて一生無縁でさァ。コイツ夏なんかタンクトップに短パンで腹出して寝てんだぜ?無理無理」
いきなり会話に割って入った地上最強空気を読まない沖田が、腹立つ発言のみならず願望までもを否定した。空いてる椅子を引っ張って、私の横にドスンと座る。こっちくんな。
「綺麗になりたいならまず、その貧相な身体をどうにかしなせィ」
「な!セクハラアル死ねヨ!」
「事実を述べただけでさァ」


「…くたば、れっ!」
ヒュッと右手をグーで伸ばすと、パシンと小気味いい音と共に掴まれた。
「チッ」
「ほらな、そんくらいで拳出してくるような女が綺麗でおしとやかになんかなれる訳ないんでィ」
言葉につまった。その事についむきになった。
「……るさい」
「そもそも、お前が…」
「うるさいアルッ!ウザいネ、消えるヨロシ!」
思いの外大きな音が出て、自分自身驚いた。
教室に一瞬沈黙が訪れる。静寂が気まずい。
それもこれも全部、お前のせいだ、馬鹿サド!


私は急いでがちゃがちゃと食べ掛けの弁当を片付けて立ち上がった。
「神楽ちゃん?」
「銀ちゃんのとこで食べてくるアル。ウザい奴がいるから」
まだ少し呆然としている沖田を横目で一瞥して、教室を出た。



早足で廊下を過ぎる。あんな奴に否定されて、傷付いたなんて認めたくない。だいたい綺麗でおしとやかになりたい理由だって、知らないくせに。


大嫌い大嫌い大嫌い。
何度も繰り返して私は職員室へ急いだ。




***


ゆっくりと弁当を食べながら、少し冷めた表情で妙は沖田に尋ねた。
「そもそも、お前が、の後なんて言おうとしてたんですか?」
沖田は机にうつ伏せてぼそっと呟いた。
「そもそも、お前が綺麗になんかなったら俺が困るだろ…って」
つまり、酷い言葉をかけてすぐ、甘い言葉を言おうとするまえに神楽がキレてしまった、というわけだ。
…まずった。沖田がそう言うと、妙が苦笑する。


「不器用な人ばっかりね」


少しバイオレンスなところもあるがそれは置いといて、目を細めている妙は確かにおしとやかそうで美人だ。


でもそんなのよりずっと、隣で喧嘩してられる女のほうが性にあっているのに。

これ以上余計な事は言わないようにしよう、と沖田は心に決めた。


この判断がとことん悪い方向へ突き進めるのも知らずに。
***

「いふぉふぃふぁふぇ?」
「食いながら話すな」
職員室の一室で、銀八は半場呆れながら神楽を眺めた。なんたってこの二人は付き合ってもいないくせにカップルみたいな揉め事を起こすんだろう。口一杯に食べ物を詰めている瞳もさっきまで涙で溢れそうだった。今は落ち着いたが職員室が危うく塵と化するとこだったんだぞ。


「色仕掛け?」
ゴクンと食べ物を飲み込む音と一緒に神楽は首を傾げた。
「そう、色仕掛け。アイツにも、全世界の思春期野郎はイチコロじゃね?」
「でも私色気ないアル…」
シュンと落ち込む神楽は確かに色気より食い気、という感じだ。
しかし惚れた女の姿を見れば、ちょっと努力をするだけで蚊が蝶に見えるフィルターが作動するはずだ。なんたって沖田くんは見るからに神楽にベタ惚れだから。
「よし、じゃあ…」


見てろよ沖田くん。
全身から変な汗がでてくるくらい綺麗に仕立てあげてやっから。


銀八はニヤリと笑った。



***


次の日。



教室に続く廊下で、私はいつもより短いスカートとはいていないジャージに違和感を感じてスカートを引っ張った。

そして慣れないコンタクト。いつもよりちゃんととかした髪。
それだけで十分だな、と銀ちゃんは言ってくれたけど、本当かな。



少しドキドキしながら、私は教室の扉を開けた。




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