少し歩いて着いた、いつも喧嘩をしている公園。
「定春!遊んできていいアルヨ!」
ワン、と大きく鳴いて、定春は子供達のところに駆けて行く。
神楽と沖田は、袋を置いてベンチに座った。
「なあ、サド」
「ん?」
「前はお前、こんな手、繋いだりとかするキャラじゃなかったネ。何があって、いつからこうなったアルか?」
沖田は定春が遊ぶ方向を見つめている。
「そうさねェ。いつから」
その瞼は薄く開かれていた、が。
「アンタが……」
「私が?」
そのまま沖田は瞳を閉じてしまった。まだ何も聞けてないのに。


沖田をじっと眺める。
ムカつくほどに、綺麗な顔。柔らかそうな髪。
思いの外ごつごつしていた大きな手。

ざわつく公園に、緩やかな風が吹いて、沖田の髪をさやさやと揺らす。

心臓が強く締め付けられた気がした。
ぎゅうっと体を縮める。




沖田がこんな風に、あまり喧嘩をけしかけて来なくなる前から、神楽は沖田が好きだった。気付いたのはもっともっと後だったけれど。
だから手を繋ぐのも、一つのベンチに座るのも、嫌じゃない。
定春がなついたのも、多分本当に。




けれど。



袋を端に置いて、そっと沖田の顔を覗きこんだ。
頬にそっと触れる。



…けれど、私は夜兎だから。いつかコイツを壊してしまう、から。




宿り木はいつの間にか居心地が良すぎて、黒い別の鳥に私は心を奪われてしまった。


そうして思い出す。
一度コイツに勝ちそうになった事があった。
その時の悦びに恐怖して、傘の軌道を寸前で逸らした。
調子が悪いと嘘をついたけれど、気付かれていたはず。

「だってずっと対等でいたかったから、ずっとずっとお前と」
多分ここにきて、強くなった分弱くなった。
ずいぶん涙腺の決壊が早くなっているから。
その雫はぽたぽたとベンチに落ちて弾ける。


沖田の頬から手をどけようとして、手首を掴まれた。ビクッと体が硬直する。
「お前、起きて…」
「なんで、泣くんでィ」
「え…?」
手首をぐいっと引っ張られ、私は体勢を崩して沖田に倒れた。
沖田の匂いにまた、心臓が苦しくなる。
「泣くな。似合わないから。あと、俺が泣かしたみたいだろィ」
「お前が泣かしたと思われればいいネ。ざまあみろアル」
「てんめェ…」

ふふっと神楽は笑った。余計に涙がこぼれてきたけれど。
「気にすんなよ」
「何がネ」
「俺はチャイナが強くなるより早く、強くなるから。そしたらお前が本気だしたって敵わないくらい強くなるから。だから、気にすんな」
「ふ、神楽様に勝とうなんて、百万年早いアル」
「べそかいてるくせに強気だなコノヤロー」
そうじゃないとやってられないだろ。


沖田はぎこちなく神楽の背中をさすった。
強くて大きいくせに不器用な手。


「一応、んで一回だけ言うから、よく聞いとけ」
抱き締める沖田の腕に力がこもった。
「俺はチャイナが夜兎だろうが人間だろうが気にしないし関係ない。種族を気にしないのは万事屋の旦那達だけじゃねェよ」


「…知ってるアル」
「一応、つったろィ」
夜兎であることを気にしているのはコイツじゃない。
夜兎であることを恐がっているのはコイツじゃない。

傍にいれるかどうかを決めるのは、自分次第。
「離すヨロシ」
「嫌だ」
「食べ物が腐るアル」
俺ァ食い物に負けんのか。少し苦笑しながら沖田は腕をほどいた。
「送りますぜィお嬢さん」
「じゃあ…袋持つアル」
「お安いご用で」
ふっと笑うと沖田も笑った。心臓の痛みにも種類があるらしい。
今はだってほら、思わず頬が緩むから。


「……ん」
片っ方軽い方の袋を渡すと頭にチョップされた。
「いたっ」
「こういう時は重い方を男が持つに決まってんだろ」
「決まってないアル」
「いいから、俺が重い方持ちたい気分なんでさァ」
「しょうがないアルな」
ふん、と胸をそらして重い方の袋を手渡す。軽く触れた指先は同じくらい熱い。


だからきっと、魔がさした。


「……!チャイ…」
「黙るヨロシ」
かああっと顔が熱くなる。そっと自分から掴んだ手の小ささを感じた。
「もーいっちょ」
「は?何が…」
大きくて長くて熱い指が絡まる。
見上げると、耳を赤くした沖田の顔があって、つられたみたいにまた熱くなった。






宿り木の傍で





***

パピー、お元気ですか。
私は元気です。
家来の銀ちゃんも新八も元気です。


あ、あのね。私、手を繋ぎたい相手が出来ました。













この手紙をパピーが読んだ次の日、悪い惑星が一個潰れたのを、私が知るよしはない。

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