宿り木の傍で

私の居場所。
私が見つけた、何より大切で、居心地のいい場所。
パピー、お元気ですか。
私は相変わらず、元気です。
私の家来の銀ちゃんと新八も元気です。



あ、あのネ。私、




***





「銀ちゃん、」
神楽は押し入れからゆっくり顔を出した。
「んー?」
「おはよ」
「はよ」
銀時も今起きたようで、目をこすりながら欠伸をした。
無愛想で、適当で、だらしのない。
でもいざって時は別人みたいに凄く強い。
第二のパピーみたいと思っている。勿論秘密だけど。

ガラガラ、と万事屋の扉が開いた。
「あれ?珍しくもう起きてたんですね。おはようございます」
「おはよ」
新八はお母さんみたい。今日も来てすぐキッチンに立って冷蔵庫を開けている。あれ、空っぽアル。
「なにもないじゃないですか。全く、買い物くらいは自分達でやって下さいよね」
全くもう!とぷんぷん怒るお母さ…じゃなくて新八。
「神楽ちゃん、定春の散歩ついでに買ってきてくれない?」
「か弱い女の子に重いもの持たせるなんて最悪な駄眼鏡アルな」
「よく言うよ!この間僕のお通ちゃんのCD壊しといて」
「あれは踏みつけただけネ」
やっぱり兄妹かも。
一人二役なんて大変アルナ。

にらみ合うと先に新八が折れた。
「分かった。じゃあ酢コンブ買ってもいいから」
「行ってきますヨー」
「早っ!」
新八のツッコミは朝から健全だ。
「行くアルヨ定春!」
「ワン!」




万事屋の扉を強く開けた。
「神楽」
呼ばれて振り向くと銀時がこちらを見ずに手を振る。
「気ィ付けろよ」
「いってらっしゃい」
新八もほうきを持って笑って手を振る。
そんな普通の家族みたいなささいな瞬間が凄く好きだ。曇りの日の、雲から光が漏れてる瞬間のような。
「行ってきますアル!」
宿り木を折るのが夜兎だと言われたけど。
ここでなら、大丈夫な気がするんだ。






けれど実は最近少し、悩みがある。



***


卵、人参、キャベツ、味噌、米、イチゴ牛乳、酢コンブ、酢コンブ、酢コンブ、酢コンブ。
「ふぅ、全部買ったアルな」
袋の中を軽く確認して、自動ドアを抜ける。雨の香りが鼻をかすめた。空は鉄板みたいな厚い雲が覆っている。


「あ、チャイナ娘」
不意に右から声を掛けられて、そっちを向くとそこにはニコ中こと土方が煙草を吹かして立っていた。
「マヨ!マヨの補充にきたアルか?」
「マヨ言うな。それにマヨネーズの買いたしなんかは山崎の仕事だからな」
「ふぅん」
さりげなく、土方の左右を伺う。
いつもならいるはずの憎たらしいポーカーフェイス。
「総悟なら今日は見廻りだから、この辺りには居ねェよ」
「な、別にあんな野郎に用はないアル!」
「ひでぇなァチャイナ。せっかくアンタに会いに行こうとしてたってのに」
いきなり神楽の後ろから、ひょいっと沖田が現れた。ドクンと、胸が強く高鳴る。

「またタバスコ入りのケーキでもおみまいに来たアルか」
「あ、ばれやした?」
呆れてため息をつく。定春が暇そうにくぅんと鳴いた。
「総悟、お前今日は巡回だろ」
「そーですぜ」
「じゃあなんで範囲外にいんだ」
「だからチャイナに会いに…」
「ようはサボりか、テメェ」
ぐしゃ、と煙草が曲がる。沖田は平然と笑った。
それからまるで当然と言わんばかりに神楽の米やイチゴ牛乳の入った袋を手にとる。
「あ、何するネ!」
「んーなんか、持ちたい気分?」

なんじゃそりゃ。そんな気分なったことない。
「おいマヨ。コイツ頭大丈夫アルか」
「大丈夫じゃねェな。やられてる。」
「チャイナに?」
「黙るヨロシ」
まあしかし、片手が空いた上に楽になったので文句はない。
「公園にいくアル」
「お、奇遇ですねィ。俺も丁度公園に用事があったんでさァ」
「サボりだろそれ」
「違いまさァ。公園の治安を守るのも真選組の仕事の内でしょう?分かってねェなァ土方さんは」
「…切腹するか?」
「ご遠慮しときやす。じゃ」
沖田は袋を左手に持ち変え、右手で私の左手をとった。…ちょっと汗ばんでるのに、嫌じゃないのかヨ。
ああ、乙女思考回路は複雑アル。
「いくぜチャイナ」
「取り敢えず手を離せヨ」
「嫌って言ったら?」
「殴るアル」
バイオレンスなヤツ。そう言うとプツンと繋がりが切れた。左手に風が触れる。…あ、ぬるい。


外してほしかったはずなのに何なんだ。
外して欲しくなかった。
「…右手が勝手に」
沖田の声がしたとほぼ同時に、もう一度左手が掴まれる。…本当に、何なんだ。きっと感情が誤作動おこしてるんだ。じゃなきゃこんなに、嬉しいなんてあり得ない。
あり得ない、けれど。
そのはずなのに。


絡まらない指先、つながる手。もどかしいようでひどく安心する。
たまにずれて絡まりそうになる指先を、いつか。
いつか、自分から絡める事ができるだろうか。

とか。ほら、やっぱりおかしい。



店を過ぎ、土方が見えなくなると沖田が笑った。
「百面相だねィ」
「人の顔盗み見なんて変態のすることアル」
「うっわー自意識過剰じゃない?俺ァチャイナの隣の定春を見てただけでさァ。そしたら変な顔したチャイナが視界に入るから」
にやにや笑う沖田にパンチを入れたくなった。残念ながら今は両手塞がってるけど。


「そういえば、定春沖田には最近噛みつかなくなったアルな」
叩いてかぶってじゃんけんぽんをした時は噛みついていたのに、今は普通で、そういえばここのところずっと、コイツには噛みつかずに珍しくすり寄って甘えていた。
沖田は嬉しそうに言う。
「犬は飼い主に似るって言うから」
「…それは何が言いたいアルか」
「チャイナが俺になついたって事じゃね?」
「あり得ねーヨ。それになついたのはお前ダロ」
「違いねェや」
また笑った。今のは否定しろよな。



前は違った。全然コイツはこんなんじゃなくて、もっと対等で、いがみあっててライバルで。


じゃあ一体いつから?
神楽は思い出そうとしてみたが、結局思い出す事が出来なかった。
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