本日、“二人で素直の日”
一昨日は机にヒビが入った。
昨日は教卓にヒビが入った。
そして今日、黒板にヒビが入った。
当然呼び出されて、私と沖田に先生はこう言った。
「明日一日、二人で素直の日」
二人同時に、首を傾げた。
次の日。
本日、二人で素直の日。
***
私はよく寝坊をするので、朝は大体遅れてくる。
すると遅れてきた私に、沖田は意地悪く笑うんだ。
自分じゃ起きられねーの?ガキだねィチャイナは。
そんな沖田に腹が立ち、いささか派手にケンカをしてしまうのだから、別に私は素直じゃない訳じゃない。いっつも向こうが色々むかつくことをしてくるから、仕方ないんだ。
私はそんな事を考えながら机に突っ伏している。珍しく早く起きたのは、変な事を銀八がいったせいだろうか。二人で素直の日?
神楽様はいかなる時も素直で正直アル!
ガララ、と教室のドアが開く音がした。「死ねよ土方」「…朝っぱらからコノヤロウ」と聞こえる。
隣でボスンと荷物を落とす音がする。デコピンが来たら素直に投げ飛ばしてやろう…と、内心で身構えたが、されたのはデコピンじゃなかった。
ぽん、と一度頭を撫でられたのだ。
あまりに予想外な出来事だったので、投げ飛ばすこともできずに固まった。
「……ハヨ。チャイナ」
頭上から、まだ寝惚けているのか眠たそうな声がする。普通に挨拶なんて、あり得ない。いつもなら開口一番罵詈雑言なのに。
でも、なによりも一番あり得ないのは私だ。
コイツの手あったかい、とか。
心臓うるさい、とか。
「…はよ、アル」
突っ伏しながら答えると、もう一度頭を撫でられた。畜生心地よいなんて、言わないかんな!絶対!
…もしかしていつもデコピンしたかった訳じゃないんだろうか。だとすれば今のが正直な沖田?
私は顔を上げた。
「オイお前、いつもさっきみたいな事したかったアルか」
「そうだったら、どうなんでィ」
「素直じゃないアル」
「素直になったって逃げるだろ、お前」
荷物を片付け終えた沖田は私を睨み付けた。
「逃げないネ。バカにすんなヨ」
さっきのくらい、逃げたりなんかしない。ちょっと、驚いたせいで心臓が跳ねたけど。
「ホントに素直になんかなったら終わりでさァ。でも今日は素直の日、らしいから」
そう言うと沖田は立ち上がって、私の顎に手をかけて上を向かせた。赤い瞳と視線がぶつかる。
「んだヨ。顔ひっぱたくつもりアルか」
「違ェよ鈍感」
「じゃあ何……」
急に沖田の顔が近くなったと思ったら、唇が柔らかく触れた。
本日二度目の思考停止。
ついでに身体中の機能が停止したんじゃないだろうか。情報がついていきません。
そんな私の目を沖田は片手で覆って、またキスをした。今度はさっきより少し長く甘く。
やっと何がおこってるのか理解したのは、沖田が口を離した後だった。
「な、なななななななっ」
「ずっとずっと、こうしたかったんでィ。俺はお前が、」
沖田の言葉を聞く前に、私は教室を飛び出した。
体が、顔が、唇が熱い。
「あ、逃げた」
「素直になるにも限度ってモンがあんだろお前」
「……終わった」
本気で落ち込む沖田を見て、鈍いのはどっちだ鈍感共。と土方はため息をついた。
本日、二人で素直の日
こんなんじゃ、1日もたない!
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