だから、繋ぎたい

それは5月のとある午後。


万事屋のリビングで、銀時はイチゴ牛乳を入れようと台所に立った。
リビングから神楽の声がする。
「銀ちゃんー。酢コンブ頂戴ヨ」
「この間買ったばっかだろ?」
「もうないアル」
「我慢しろ」
神楽がふて腐れる横で客(多分)が神楽を抱き締めた。
二人パタンとソファに倒れる。
「旦那ァー。チャイナ下せー」
「この間めいいっぱい遊んでたろ」
「もう三日前の話でさ」
「我慢しろ」
「…てゆーか何でお前が普通に万事屋居座ってんだヨ!帰るヨロシ、触るなヨ!」
グイと神楽は沖田を押し退ける。
沖田はコテンと地面に転がった。
「痛ェ…。似非チャイナ。何すんでィ」
「何って、不快だから落としただけネ。埃払うのと一緒アル」
さも当然と言わんばかりの神楽に沖田は一瞬寂しそうな顔をして、神楽に手を差し出した。
「チャイナ、手」
「嫌アル汚いアル」
「お前よっかは汚くねーよ」
「るっせ」


「……酢コンブ渡そうとしたんだけど」
神楽はお手をされた犬のように素早く倒れている沖田に手を置いた。
沖田はぎゅっと握られている拳を開く。そのままなんの躊躇いも躊躇もなくスルリと指を絡めた。顔はSチックに満足そう。あれ、沖田君ってこんなキャラだったっけ?キャラ変更のお知らせ見逃したかな。

「旦那ァ見ないで下せェよ」
神楽は呆然としていたが、事態を認識した瞬間反射をも凌駕しそうな勢いで手を離した。
「な、何をするネ!」
「手を繋いだだけ」
「沖田くん…君さ、何しに来たの。キャラ変更のお知らせ?」
沖田と向かい合わせになる椅子に腰かける。神楽の顔はイチゴ牛乳より真っ赤でなんかいい気分じゃない。

あれだ、娘が彼氏を連れてきた気分。
あり得ないけどね。だって日頃からあんなにいがみ合ってた二人だし。


「依頼に来たんでさァ」
「金は」
「先払いで、家の貯まった家賃なんか全部払ってもあまりやす」
「うけた!」
沖田は何やら含み笑いをした後神楽を見つめてまた笑った。今度は優しく。


「チャイナを三日俺に下せェ」
「はあああ?」
銀時と神楽の声がピタリと一致した。それが気に食わなかったのかちょっと沖田は不機嫌そうになった。
「…言った通りで。実は真選組での力仕事がありやして、チャイナを借りようって話にまとまったんでさぁ」
部屋は野郎とは離れてるんで色々複雑な問題も回避です、と沖田は言ったが娘を野郎だらけの巣に放り込む訳にはいかない。
「悪いがお断り…」
「旦那は確か、今月で3ヶ月家賃がたまって…」
「神楽ならどうぞこき使ってやってくれや」
「銀ちゃん!」
自分の変わり身の速さに呆れる。すまん神楽。今度酢コンブかってやるから。
「じゃあ決まりって事で」

神楽はぎゃあぎゃあ喚いていたが、沖田はそれを全て流し、神楽を横抱きにして万事屋を出ていった。



だが銀時は気付いていなかった。
沖田総悟の依頼の矛盾に。


***


「おい、お前こっち屯所じゃないダロ」
「ああ、こっちに荷物があるんでね」
暴れなくなった神楽はややむくれて沖田の後ろをついてきた。
「なにやってんだ。ほら横」
無表情でぶっきらぼうに横を指すと嫌そうな顔で否定された。
「隣である必要はないアル」
「…違いねェ」

でも。でかかった言葉は喉元までせりあがってきた癖に戻っていった。…ただ、隣にいて欲しいだけなんだけど。


それからなんとなく無言で数分歩くと目的地に到着。
「荷物…ってここアルか?」
神楽がちょっと驚いたような声を上げる。
「ここでさァ。ばあさん、風船ガムと酢コンブ下せェ」
にこにことおばさんは優しく沖田に酢コンブを手渡した。
それを無表情で受け取る。
「なんかいいことでもあったアルか?」
「いやいや、なんでもないのよ。ごめんなさいね」
「ふぅん」
沖田と神楽が店をぬけるまで、おばさんはずっとにこにこしていた。


「ほい」
店を出てすぐ、右手におさまっていた酢コンブが宙に舞い神楽の両手におさまった。
自分も買ったガムを口へ放る。
「くれるアルか?」
「ああ、依頼料でさ」
「万事屋の家賃は」
「別」


ぷくうっとガムが膨らんだ。


「あれ、結局荷物は?」
「荷物?何の事でさァ」
「…おい、まさかからかった訳じゃ…」
「いや、依頼はしてるだろ。神楽を三日俺のものにって」
「……え。…は?」


ぱちんと風船ガムが割れた。

「言ったろ俺、チャイナを三日俺のものにって」
「私は重い荷物を運ぶつもりで…」
「ありゃあ俺の一人言でさァ」「なんで私が三日お前のものにならなきゃいけないアルか」
「なんでだと、思う」
「なんで…?」

神楽は真剣に悩んでいる。沖田はそんな神楽を見つめた。
伝われ、伝われ、気づけ。
悩む神楽の右手を掴んだ。
「な、なんで手を掴む必要があるネ」
俯く神楽はどんな表情をしているんだろう。嫌な顔?迷惑そうな顔?
沖田はゆっくりと微笑んだ。



「理由なんてねェよ?ただ、繋ぎたかっただけ」
万事屋にいたときと同じように手を絡める。指先が熱い。柄にもなく緊張してるんだ、俺ァ。


これから三日、共に過ごす屯所へ二人は歩き出した。

今度は神楽は手を離さなかった。





だから、繋ぎたい




好きだから、繋ぎたい。
言えなかった。
3日で何を変えられるだろう。
好きなんてこっ恥ずかしくて言えねェから。

気づけ、気づけ。
気づくように仕向けるから。



付き合うかどうかなんて、予想通りには行かないんだぜィ、旦那。




















さて、この三日間を書くか、この話で終わらせるか。…リクエストがあったら書きます!(^-^)b


title:青二才
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