友達が丁度いいなんて

逃げるのは止めてみようか。







***
攘夷浪士を捕まえて、とりあえず一時休憩時間。それが終了すると屯所でソイツらを拷問。そんな短い小一時間程度の休憩の時間が、雨と一緒に流れていく。
俺はそれをただぼんやりと眺めていた。


雨は嫌いじゃないが、傘を持っていないと難儀する。茶屋の軒下で、せめて小降りにならないかと待ってること数分。もう濡れて帰ろうか。
俺がそう思案していると、遠くから、紫の番傘をさしたチャイナが右手に傘、左手にスーパーの袋を持って、酢コンブくわえながらやってきた。今の状況を馬鹿にされる気がしてならない。
心臓が一度ズキンと痛む。


…全く、会いたかったなんて言えやしないくせに心臓だけは素直だ。
「あ、サドだ」
「よ。チャイナ。相変わらず不味そうなモン食ってんな」
「酢コンブを馬鹿にするやつは私が許さないネ!今ここで酢コンブより薄っぺらいカスにしてやろうか?アアン?」
そう凄みながら上目遣いで睨んでくるアンタは相当可愛いよ。睨まれてるのに可愛いと思う俺の頭は可哀想だけど。
「チャイナ。傘に入れろ」
「ぷぷぷだっせ。傘も持ってないアルかお前。お前入れたら傘が腐るネ錆がくるネ。絶対にごめんヨ。ぶゎーか!ふははは!」
チャイナが大口を開けて笑う。
「はい逮捕ー。おまわりさんの心を傷つけたー」



大粒の雨の中でそのまま口喧嘩と言う名のコミュニケーションが続いた。



実際俺は、この好敵手の位置関係に満足しているんだ。
好きなんて言ってみろィ?それこそ‘ぷぷぷ’であり‘ぶゎーか!’であり‘ふはは!'だ。
ん?よく例えが分からない?
用は馬鹿にされて終了ってことでさァ。


「残念だったアルな。濡れて帰りやがれバーカ」
チャイナはにんまりと笑って行ってしまった。え、今のは相合い傘するフラグじゃねぇの!?


「チャイナァ!」
…これだけは使いたくなかったんだが。背に腹は変えられない。
神楽の雨より冷たい視線が突き刺さる。柔なハートにヒビが入るが気にしてられない。

「さあて問題でィ。俺が右手に持ってる、片手サイズで長方形の赤い箱はなんでしょ…」「酢コンブ!?」言い切る前に神楽が戻ってきた。
ああやっぱり、酢コンブに負けるんだな俺は…。


素直に傍に寄ってくれる可愛さと引き換えに感じるこの敗北感。
「ほしかったら傘に入れろィ」
今度はこちらがにんまりと笑う番だ。憐れな俺に、少し位いい夢みせやがれこんちくしょう!

チャイナは悔しげにぐっと俺を睨み付けた。
気分が良いのは俺がSだからか。多分そうだ。
「…背に腹は、変えられないネ」
お互い痛み分けらしい。


「ほら、入るヨロシ」

俯いて傘を差すチャイナの声が少し震えているように聞こえたのはきっと気のせいだ。
「じゃあ、お言葉に甘えましてぃ……っと」
「あっ…!!」
傘をヒョイと掴み二人を雨から守る。
いや、少しばかり左肩が濡れてはいるが文句はこれっぽっちもない。むしろお釣りが来るくらいだ。
肩が当たる。心臓が大きく跳ねた。


「屯所に行くぜィ」
「…しょうがないアルな」

俺とチャイナが屯所へ向かおうと足を一歩踏み出した、その時。
「あれ、神楽ちゃん?と……沖田さん!?」

新八君が右手に袋をもち、左手に傘をさし歩いてきた。


…最悪だ……。


「新八、丁度良いところにきたネ!」
フラグ終了。その時間およそ数秒。グッバイ夢。ウェルカム現実。



「神楽ちゃん、……ってうわっ!」


チャイナは右手に持ってた袋を新八君に投げた。
……ん?

「それ、万事屋に持ってくヨロシ。じゃあな新八。行くアルよサド」

……マジでか!




嬉しくて昇天するかと思った。
やっぱ好敵手のままとか、無理かも。


だってほら、


「別に、酢コンブの為だけにお前と歩いてる訳じゃないからナ。その辺察しろよ鈍感ドS」


何だか別フラグたったから。



相合傘万歳!






(神楽が好きでさァ)
(ふーん)
(え、なにその反応)
(…酢コンブしか私を釣る方法を見つけらんないサドに惚れた私を蔑んでるアル)
(…辛辣娘)
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