「…で、ここが一番よく来てた公園アル。見覚えないアルか?」
「すいやせん…」
「謝るなヨ何か気分悪い」


記憶喪失の少年相手に恋人偽証して何故か良く出会う公園にいる。
本来なら一生に一度もなかっただろう不思議な出来事に改めて首を傾げた。


「どうかしやした?」
沖田が隣を歩きながら顔を覗き込んでくる。
「何でもないヨ!」神楽は慌てて顔を背けた。コイツが沖田じゃない沖田…Sじゃないなら沖田じゃないよな。いや、正確に言えば沖田で間違いないんだけど、…よく分からなくなってきた。


とにかく、いつもの沖田じゃないのは重々承知だ。
それなのにその声と顔を見るとそんなギリギリのリミッターが外れそうになる。平然を保つには顔をみない。それしかない。
申し訳ないとは思うが、許して欲しいと思う。

だってもし記憶が戻って記憶喪失だった時の記憶がそのまま残っていたらどうする。
いつもの沖田ならからかうだろう?「似非チャイナはいつから俺の彼女になったんですかィ?」
…そんなの冗談じゃない。


そんな思惑も含めて、神楽は沖田にそっけない態度を続けていた。「神楽」
少し前を歩いていた沖田が振り替えって公園のベンチを指差した。
「少し疲れたんで、休みやせんか?」
いつもベンチの取り合いをしていたそのベンチ。

心臓を何かが突き刺した。それを無視して笑う。
「そうアルな!」

表情で全てばれてしまいそうで怖くて、神楽は先にベンチへ駆けた。







残り数歩、…お願いします神様仏様酢コンブ様。すぐに心臓のトゲを引っこ抜いて。あそこへついた時にはいつもの私で。





厚い雲が、辺りを覆った。
***


本当に俺は神楽と付き合っていたのか?
そんな疑問が沖田の腹の中を渦巻いて離れない。自分が心配しなければならないのは記憶が戻らない事の方なのに何故かそちらばかりが気になった。


神楽はそっけない態度をしているフリをしている。
それは、節々に伺える神楽の優しさや気遣いですぐに気づいた。
すると自然に湧いてくる疑問。



何故、わざとつっけんどんな言い方をするんだろう。
何故、名前を呼んでくれないんだろう。
何故、目を合わせてくれないんだろう。


沖田がベンチへ行こうと言った時の神楽の少し見開かれた、青く濡れた瞳。
どうした?と、聞けなかった。まるで痛いのが共鳴したみたいだ。ズキンと胸が痛む。
その時(驚く事にそれがはじめて)記憶を取り戻したいと強く思った。
自分があまりにも非力だからか。
元の俺ならきっとこんなに泣きそうな顔はさせないんだろう。


「沖田!早く座るアル!」
「…へい」




ベンチに座った彼女の顔は、濡れた瞳以外全くいつも通りだった。



それを悲しいと感じたのは、どうしてなんだろう。
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