それだけでいい
※3z ♂沖田×♂神楽
自分が異常だと気付いた時にはもう遅かった。
高校で知り合った“ヤツ”は、同じ男としては羨ましい位の“見た目”をしていた。
整った顔淡い栗色の頭。
まあ中身はその外見に反比例して最悪だったが。
中国からやってきた俺に「ぴんくい頭。ほっせー体。女みてー」と言ってきやがった。次の瞬間俺はヤツを教室の端に投げ飛ばしてしていた。人のコンプレックスをずかずかと踏み込んでくるなんて最低だ。
沖田と交わした会話はそれが初めてで、勿論印象は最悪だった。
沖田は「細いくせに強いへんなヤツ」と認識付けをしたようで、何かと俺につっかかってきては止められるまで喧嘩をした。
***
「帰るぜぃ神楽ァ」
「おー。帰りに駄菓子屋よろーヨ」
「また酢コンブかよ。好きだねぃ酢コンブ野郎」
そんな最悪だったはずの沖田は、気がつけば一緒に帰る仲になっていた。喧嘩友達ってやつだ。
「はっ!お前に酢コンブの良さなんか分かって欲しくないアル!」
「分かりたくもないけどなー」
「んだと!」
「あーはいはい。ほら、行くぞ」
あっさり手をひいて歩き出す沖田。慌ててこっちはその手を振り払った。
沖田はさして気にする様子もない。
そりゃあそうだ。意識すんのがおかしい。
だから俺はおかしいんだ。
いつの間にか目はコイツを追い、目が合えば心臓が騒いだ。告白する場面に遭遇すれば相手の女になんて返すのかに怯えて、断れば安心していた。
どうしてよりによってこんな最悪なサド野郎に。
というか男に。
なかなか歩き出さない俺を不審に思ったのか、沖田が振り返った。
「どーした?考えごとかィ?」
「えっ?…あーいや、そう言えば俺金持ってなかったなーと思って」
「バッカでィ。奢らねーぞ」
「けちくさいアルなー沖田は。そんなんじゃ彼女に逃げられるアルよー」
けらけらと笑うが内心はヒヤヒヤしていた。一歩先を歩いて笑う。表情を見られないように。
「彼女なんか要らねーよ」
「自慢?」
「違げーよバーカ。俺は、お前と喧嘩してるほうが性にあってる」
「……あっそ」
「お、照れてる?」
「誰が照れるか!」
廊下に自分の声が反響する。
こーゆーところを気にせずいう所が嫌いだ。
こっちが照れてると言ったらどーするつもりなんだ。
その後、なんやかんやで酢コンブを一つ買った沖田は、一枚自分で食って「まっず。いらね」と言いつつ残りを俺に手渡した。
分かりにくい優しさが垣間見れる瞬間が嬉しくて思わず頬が緩んだ。
***
「沖田ー帰るアル、…ヨ」
夕方の教室。差し込む夕日に照らされた沖田の髪はさらさらと風に揺れた。
隣の席から聞こえるのはゆったりした吐息。
「寝てるアルか?」
返事はない。
俺は、そっと沖田の目の前に立った。二人きりの教室に少しばかり緊張する。
「沖田…」
ゆっくりと、確かめるように、この教室に染み込むように名を呼んだ。
好きアル
なんて言えるはずがない。
「ゴミ、ついてるアル」
寝てる相手にわざわざ嘘をついて頭をそっと撫でた。胸が軋む。そしてその感覚は足先から指先まで広がって苦しくなった。
多分一生言えない気持ち。
だからせめて、ずっと傍に。
ずっと隣にいさせろよ。
顔を近づけて、耳にそっと口付けた。
傍にいれるなら、
隣で笑ってられるなら、
(それだけでいい)
叶わなくても、
傷付いても。