この時代と繋がる―伍―

それからはほぼ毎日、夜になるとそれこそ熱々な恋人同士のように連絡を取り合った。

最初のうちは僕からってことが多かったけど、そのうちに土方さんからもかけてくれるようになった。

年の瀬には、戦時中だというのにこんな時まで正月だなんだって騒ぎやがる、なんてぼやいていた。

「そう言えば、何で今は落ち着いてるんですか?」

現代での日本は戦争の「せ」の字も縁がないから、もちろん戦の何たるかなんてことは想像もつかない。

こうやって欠かさずに話を出来るのは良いことだけど、状況もわからないから訊ねるしかなかった。

『真冬の箱館…蝦夷に、本州から入り込んで行こうなんて馬鹿はいねぇってことだよ。吹雪が凄くて、俺たちもよくここの奴等はこんなとこに住んでるなんて感心してるくらいだ』

「つまりそれは…春になったら、また戦いが始まる…ってこと?」

『まぁ…彼奴らがこのまま見逃すとは思えねぇしな』

土方さんたち江戸幕府側の人たちは、函館に集まって一つの国を作ったらしい。

蝦夷共和国というそれは、当たり前だけど立派な一つの政権を主張している。

要は、その当時の日本に二つの政権が存在することになる。

そんなものを、敵方が見逃す筈がない。



今あるこの穏やかな時は、決して永遠じゃない。



そんな当たり前のこと、今まで見ぬふりをしてきた。

そしてこれからも、そうしていくんだろう。

そうじゃなければ僕は、言ってはならないことを言ってしまう。

今すぐパソコンで調べて、何とかして土方さんを生き残らせようとするかもしれない。

だから無理をしてでも目を逸らして、何でもないように軽く返事を返す。

そしてまた、適当に話を変える。

土方さんは、何処の生まれなんですかとか。

子供の頃は何してましたかとか。

新選組とか、今の仲間の話とか。

気がついた時には、視界がぼやけて揺れていた。

『…どうした…?』

声の震えは頑張って抑えたけど、ふとした瞬間に鼻を啜ってしまったのが伝わってしまったらしい。

心配気な土方さんの声が、もっと涙を誘ってきた。

「な…でも、ないです…」

避けられない大切な人の死を、僕はもしかしたら止められるかもしれない。

けれどそれをしてはいけないことを、本能的に知っている。

抗えない筋書きを土方さんに歩ませることが、辛い。

「ねぇ、土方さん…」

『ん?』

「土方さんは…未来を知りたいと思わないんですか…?」

だからこそ、全てを土方さん自身に委ねようと思った。





『…思わねぇ』

返ってきた答えは、僕が欲しかった答えではなく、そして予想通りの答えだった。

「…でも、未来を知ることが出来たら、土方さんたちは簡単に勝てるかもしれない。仲間を失うこともないし…」

『それでも、その未来は偽りだろう。皆が必死に考え足掻いた、意味ある結末じゃあない』

「それは…」

本当に、想像以上に強い人だ…土方さんは。

彼が生き残る術を提示する余地すら与えてくれずに、僕は諦めてそうですねと相槌するしかなかった。

『まぁ、それでもお前がいる未来がどんなもんかは見てはみたいけどな』

「…見れますよ、きっと」

気休めにしかならない言葉でも、今の僕にはこれしかなかった。

例え僕が土方さんを死から遠ざけても、僕たちの時間は決して重なることはない。

「…僕も、貴方のいた時代を見てみたい」

『…総司…』

電話なんかじゃなく、顔を見て話をしたい。

逢いたいなんて、出会い系のサイトじゃないんだから。

苦笑を洩らして、今日は僕から通話を止めた。





どうして携帯電話は、僕たちを繋げたんだろう。



―――

今回はちょっと切なめ

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