この時代と繋がる―参―

それから二日ほど待ってみたが、電話が掛かってくることはなかった。

電話帳にはメールアドレスの登録が無かったから、土方さんと連絡を取るには電話しかない。

とは言え『戦もあるから』の一言もあって、こっちから電話を掛けることも気が引けた。

何より、掛けてみて繋がらなかった時のダメージを考えたら、とても掛ける勇気は湧かなかった。



あの日電話が切れて、何となくもやもやしたものを抱えながら寝に入ったものの、朝起きた瞬間の気持ちったら言葉に出来ないものがあった。

携帯を開いて、電話帳と発信履歴を確認して息を吐く。

全部僕が作り出した、あり得ない夢じゃなかった。

そう実感できたことが、何よりも安堵に繋がる。

誰かに話をしたいと思ったけど、それは止めておいた。

どうせ頭がおかしいと笑われる落ちが見えていたし、更に言えば土方さんとのことは他言したくなかった。

土方さんを誰かに知られたくない…何て思ったのもつかの間、かつての偉人を独り占めなんて出来る筈もないと自嘲する。

僕と土方さんの間には、何よりも高くて大きい…『時間』という壁があった。

こんな恋する乙女みたいに毎日携帯を握り締めて連絡を待ち、着信が土方さんじゃないとがっかりして溜め息を吐くなんて…バカらしい。

いっそ全部夢であったなら良かったと携帯を離した瞬間、あの人からの着信が入った。





「…も、もしもし?」

慌てて携帯を開いて、通話ボタンを押して耳に宛てる。

向こう側から聴こえてくる妙な静けさが、声を聞く前にあの人だと教えてくれた。

『おう、連絡遅くなって悪かったな』

「…戦ってたんですか?」

『いや、今は真冬だからな。暫くは戦もないかもしれない』

「そう…なんですか…」

良かったと思うと同時に、なら何でもっと早く連絡をくれなかったんだと考えてしまい、やっぱりどうかしていると思った。

しかも、その心が相手に伝わってしまったのかもしれない。

土方さんは言い訳のように付け足した。

『あの日の夜、入札ってのがあってな…。幹部に選ばれちまって、それから暫く忙しくなっちまったんだよ』

「幹部に…」

幹部ってことは、指揮官ってことだろうか。

それなら少なくとも、前線に立ってまともに攻撃を食らう心配はしなくてもいいのかもしれない。

「凄いですね」

『…俺は、本当は一小隊の頭で充分なんだ』

思わずといった口調で告げられたのは、もしかしたら彼の抑えられた本音なのかもしれない。

だとしたら、例え僕が無関係の立場だから言ってくれたのだとしても、嬉しかった。

「背負うものが大きいと、その分縛られちゃいますもんね」

『…そうだな』

言葉少なな土方さんは、それからもあまり喋らなかった。

その空気に堪えられず、話題ごと変えてしまおうとわざと明るい声を出してみた。

「僕、土方さんのこと調べないようにしてるんです。だから、土方さんの容姿とか昔のこととか聞きたいんですけど」

『何でだよ。調べてすぐわかるんなら、調べりゃいいじゃねぇか』

「それじゃ面白くないでしょ。折角本物と話が出来るのに」

本当はそれだけが理由じゃない。

調べれば、知りたくないものまで見てしまう。

それが怖くて、見ることが出来ない。

『…ったく。ま、わからなくもねぇけどよ。…俺も、例えば織田信長と話が出来るなら直接聞きてぇしな…。と言うか、そう考えたら何だか笑える』

「え、何が?」

『俺も、お前がいる時代じゃ信長公と同じように思われてんだろうな、ってことが』

「まぁ、確かに…」

僕だって、もし自分が未来の人から名前を検索とかされてたら少し可笑しい。

そう言えば、前に好奇心から自分の名前を検索した覚えがあった。

『沖田総司』

確かその人は、剣の腕がもの凄く強くて、新撰組の一番隊の組長で、若くて、そして労咳という病で…肺結核で死んだ。

その内容を見た時、僕はまるで自分のことのように胸が苦しくなった。

その時はきっと、自分と同じ名前の人のことだからこんな気持ちになるんだと気にもしなかったけど、今思うとそれだけじゃないような気もする。

よくわからないけど何となく、僕は新撰組の沖田総司と何か関係があるように思える。

そのきっかけの一つが、土方さんだった。

「で?土方さんはどんな見た目何ですか?」

『どんなって言われてもな…』

「モテますか?」

『もてる…?』

「えーと…女性から告白されたりとかします?」

『まぁ、そうだな…。江戸や京にいた頃は、よく恋文を貰ったこともあったが…』

何それ、何気に自慢話?

そう思ってしまうのは男の性か。

それでも顔がわからないのと、友達とかではない相手であるからか、苛々するよりはどちらかと言えば微笑ましいと思う方が強かった。

けれど、じゃあ結婚は…なんて続けることは、何故か出来ない。

望まない答えは聞きたくない…なんて考えてる時点で、僕は曖昧ながら自分の心にひっそりと根を張ったそれに気づいてしまった。





僕は、してはいけない人に恋をしてしまった。



―――

長くなったので続きはまた。


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