この時代と繋がる―壱―

僕が持つ携帯電話は、過去に繋がる。





ある日突然、電話帳の中に知らない電話番号が登録されていてびびったものの、気になった僕は恐る恐るかけてみた。

「あの…もしもし?」

『………』

「もしもし?もしもーし」

これはヤバい。

受話口の向こう側は無言の上、無音。

絶対何か危ない番号だったんだかけるんじゃなかった切らなきゃ切ろう!

そう思って耳から離し電源ボタンを押そうとした、その瞬間。

『…な、んだ…これ…』

「…え?」

聴こえてきたのは、知らない声。

でも何故か戸惑ったような声音に、慌てて耳に宛て直した。

「…あの、どうかしましたか…?」

『………何で、声が聴こえる…?誰かこん中に入って…る訳はねぇか』

何処か時代錯誤なギャグをノリツッコミで繰り広げられて、思わず吹き出してしまった。

「…ぶっ。あははっ…」

『うわっ、笑い出しやがった…!なんだこりゃ…気持ちわりぃ…』

そしてゴンと鈍い音が耳に届いた。

どうやら携帯を投げられたらしい。

「ちょ…あなた誰ですか!?何でこの番号、勝手に登録されてるんですか!」

それから先は、もう忍耐の勝負だった。

「聞いてるんですか!ちょっと!おーい!」

いくら話しかけても返ってくるのは静寂。

て言うか放置プレイなら通話切らないと電話代とか電池とかヤバいんじゃないのと考えて、何でどこの誰だかわからない相手の心配してるんだ僕は…と思い直す。

「ちょっとー!ちょっと!」

『だー!うるせぇな全く…。寝れねぇじゃねぇか…!』

だったら切れば良いだろうと指摘する前に、再び取って貰えた気配を感じて肝心なことを先に切り出した。

「あなた誰ですか?」

『…お前こそ誰だ』

「僕は…沖田と言いますけど」

『沖田…?』

威圧のある雰囲気を無意識に感じ取り、名乗るのも緊張してしまった。

しかし相手は誰だか正体もわからないので、慎重に名字だけを告げてみれば怪訝そうに返された。

『…沖田、総司…?』

「え?」

下の名を告げたつもりの無かった僕は、知らない筈の相手にフルネームを言われて戸惑う。

相手のことを知らないのは、もしかして僕だけ?

そんなことを考えた。

「…あの、どっかで会ったことありましたっけ…?」

『………』

「もしもーし」

『…聴こえてる』

気味の悪い間を与えられて、もっと戸惑う。

不機嫌そうな電話の相手は、最後には大きい溜め息を溢してやっと名を告げた。

『…俺の名は、土方歳三だ』

「へぇ…って、え!?まさかあの、新選組の…!?」

『惚けてんのか…?お前だって新選組だろ…って』

変なところで突然切られた言葉はそれ以上続かず、また妙な沈黙がもたらされた。

惚けるっていうか、ふざけてるのは相手の方だ。

何が楽しくて、過去の偉人の名を騙るのか。

「もしもし?そんな冗談はいいんで、とりあえず説明して貰えませんか?何で、勝手にこの番号登録されてるのか」

『…そりゃこっちが知りたいよ…。わかんねぇことばっかだ…。この、見えねぇのに話が出来るもんも、死んだ筈の総司が相手なのも…』

…死んだ?

誰が?

「何言ってるんですか、縁起でもない。僕は生きてますよ」

『…声も、口調まで一緒だ…。何なんだ一体…』

携帯電話を握って電話をしている、ただそれだけのことなのに、相手は相当に混乱しているようだった。

もしかして、僕と同姓同名の誰かが本当に死んでしまったのかな?

そういえば、僕の名と同じ人が新選組の一人にいたような…。

「…あの」

『…何だ?』

「今、何年ですか…?」

ふと、訊いてみたくなった。

これが解決の糸口になるような気がして。

過去とか未来とか、馬鹿げているとは思うけど…。

それでも、これによって相手を試すことも出来るから。

『…慶応4年。12月15日』

「…け、いおう…?」

知らない年号が出てきて、判断がつかない。

少なくとも、僕よりは歴史に詳しいのか…それとも。

『官軍連中は、明治って言ってるな』

「明治…!」

それならわかる、明治は平成・昭和・大正の前の年号だ。

そう、江戸時代が終わってから直後の年号。

そして、かの有名な人斬り集団・新選組が生きた時代が江戸末期の…所謂、幕末。

「うそ…。まさか、本当に…?」

騙されている、そう考えるのが普通だ。

演技力のある人が、僕を騙そうとしてる。

でも、果たしてそうする意味はあるのか。

そもそも、僕は家にいる時以外に携帯を肌身から離すことはない。

この番号を第三者が登録する隙なんかないし、僕がかけなかったら繋がらなかった筈。

『…どうした?』

語りかけてくるような、心配を滲ませるその声音を耳にして…『懐かしい』、突然そう感じた。

知らない人じゃない、僕は…この声を知ってる。

昔…ずっと昔、どこかで…。

「…ひじかた、さん…」

口にして、訳もなく涙が溢れる。

記憶にない筈なのに、胸が痛い。

頭じゃなくて、心が知っている。

「土方さん…」

『何だよ、どうしたんだ…?』

この電話は、過去に繋がっている。

今なら確信できた。

僕は、今の時代では偉人の一人と電話で話をしてる。

よくわからない現実であることに変わりはなかったけど、それでも僕はこの事実を前に電話を切ることが出来なくなった。



―――

非科学的現象。

転生はあんまり好きじゃないけど、こういうパターンならいけるかな。


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