コスモ―ひとときの別れ―
―――総司。
不意に呼ばれたような気がして、あるわけが無いのに思わず振り返ってしまった。
そんな自分を自嘲して、もう一度『現実』に向き直る。
冷たい石に刻まれた愛しい人の名前を視野に入れて、前と変わらず胸が痛くなった。
今日は、あの人が僕の傍からいなくなってちょうど一年。
この一年間、ずっと来ることが出来なかった場所。
今この石…墓石の下には、きっとこの生涯で唯一人の僕の恋人が眠っている。
『土方歳三』
その名を見つめるだけで、視界がぼやけた。
もうこの世のどこにもいないのだと改めて言われているようで、それがどうしても認められない。
やっぱりそのまま墓石を見てはいられなくて、僕はとうとう目蓋を閉じてしまった。
浮かぶのは、誰より綺麗で格好よくて優しい…土方さん。
初めて逢って恋をして、ずっと一緒にいられるんだと思い続けていた日々。
幸せだった過去を思い出して、そしてそうじゃなくなった日のこと。
あの日、僕は人生で初めて…どんなに大切にしていても守れないものがあるのだと知った。
走馬灯のように過ぎていく思い出は、全部…過去。
そして今、土方さんはここに眠っている。
向き合いたくなくて、向き合えなくて。
でも、向き合わなければ前に進めないと教えてくれたのは、結局土方さんだった。
「…土方さん。近藤校長がね、僕の進路相談に乗ってくれてるんです。で、土方さんが通っていた大学に入学出来るようにって勉強とか面接の練習とかも協力してくれて…」
それもこれも全部、土方さんが根回ししてくれていたから。
「校長だけじゃない…。原田先生も永倉先生も、僕が行き詰まると気分転換に連れ出してくれたり、平助君もはじめ君も一緒に勉強頑張ってくれてます」
本当の僕を知って、そして僕の背中をそっと押してくれたり、時には一緒になって助けてくれたりする。
そんな皆と出逢えて、本当に良かった。
「ありがとう、土方さん。全部、土方さんのお陰だよ」
土方さんへの気持ちは、これからもずっと変わらない。
だからちゃんと伝えなければならない。
「…僕も、土方さんがずっと好き。…愛してる」
真っ直ぐに向けてくれた純粋な気持ちへの応え…だから。
「ばいばい。…またね」
例え一緒にいられなくても、必ずまた逢える。
そう信じて、僕は貴方が辿った道を歩く。
今を、大切に…生きる。
一回り大人になった僕の目に、涙はもう流れなかった。
―――
最初考えてた終わりとなんか違う。
でもまぁいいかな。
[ 2/21 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]