蒼黒の狩人ー見えない距離ー

信頼とか、信用とかしている相手が、明らかに僕に対して隠し事をしていることがわかってしまうと、それはそれで傷つく。

本来、僕たちのこの関係は僕がついた嘘で出来上がっている訳だし、そんな考えが僕の単なる我儘でしかないことはわかっている。

いや、我儘なんてどころじゃない。

とても自己中心的で、傲慢過ぎる。

けれどいつの間にか、そういう配慮だとか遠慮だとかを忘れ去って、僕の心は勝手に暴走してしまう。

例え嘘が真実だったとしても、僕はその人の何でもないのに、僕を見てくれていない…蔑ろにしている、そんな風に思ってしまう。

結局僕は、誰の為でもなく自分の為にしか生きられない。

世界は僕を中心に動いてくれなければ嫌だと喚く、子供みたいな奴なんだ。





「自分の為に生きずにどうする」

僕の考えなんて、死神さんには全部お見通し。

便利な時は便利なんだろうけど、プライバシーみたいなものがないのも考えものだ。

しかもこっちは向こうの考えが読める訳じゃないから、何も得はない。

「何それ。励ましてるつもり?」

「他者が他者に隠し事をすることなど、人間ならば当たり前だと思っていたが」

「そうだね。僕も隠し事出来たら良かったよ」

確かにはじめ君が言う通り、どんな人だって隠し事の大なり小なりあるだろう。

けれど親しくしている相手の…少なくとも僕にとっては大切な相手のことを知りたいと思うのは、そんなにおかしなことなんだろうか。

「土方さん…」

まぁ普通、設定ながらそんなに知っている仲ではないと言ってしまった手前では、望むのも大きい事柄なのかもしれない。

僕だって逆の立場だったら、きっと同じだっただろう。

「…やはり、人は難解な存在だな」

はじめ君の呟きもさらりと聞き流して、僕はそっと溜め息を零した。





土方さんが大好きな沢庵を買って病室に顔を出した時、ふと僕に気づいた彼の人は台に置いていた何かを慌てて枕の下に隠したのを、僕は見てしまった。

「何してたんですか?」

「いや、何でもない」

そっと探ってみても、そう返されてしまえばそれ以上は踏み込めない。

ただの知り合いに、踏み込む権利なんてないのだから。

それから暫く、土方さんが打ち明けてくれる様子も感じないまま、枕の下に隠されたそれを気にしている自分も嫌になって、いつもより早めに病室を離れた。

ぐるぐる頭の中を回っている、土方さんの枕の下。

一度気になってしまえば止めどなく気になってしまうのは、人間の性なのか。

相手が土方さんだから、というのも理由の一つなのかもしれない。

僕にとっての、土方さん。

それは多分、無償の情だけでは収まらない規模で特別枠に入っている。

自分勝手な僕は、やっぱり同じだけの情を返して欲しいと思ってしまう。

「…好いているのか」

「え、…は!?」

「お前のそれは、そういうことではないのか」

僕の心理を読み取ったはじめ君の一言は、どこまでも適格。

そんな筈はないと首を振りながら、土方さんが相手ならそれもいいかななんて考えてしまっている時点で、僕は最低な人間だ。

僕は、土方さんのことを何も知らない。

そして土方さんだって、僕のことを何も知らないだろう。

人として、何て口にすら出せない。

もし万が一この気持ちがそうだと言うのなら、好きの理由は顔としか答えられないじゃないか。

そりゃもちろん、土方さんは美人だし嫌いな顔じゃないけれども。

そんな単純な理由では、流石に男の人に矢印は向かない人間でいて欲しい。

「人というのは、面妖で面白いが…面倒だな」

「うるさいな、ほっといてよ」

頭に浮かぶ沢山の否定と、そしてあの枕の下。

いつの間にか欲張りになった自分は、今までそれなりに経験してきた女性関係の歴史にはあまりないものだったかもしれない。

それ故か、こんな時どうしたらいいのか分からなくなる。

土方さんは、僕のことをどう思っているんだろう。

「はぁ…」

ただ一つ言えることは、少なくとも僕は土方さんのことをもっと知りたいと思っている、ということだけだった。



―――

なんかちょっと面倒だね


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