コスモ―土方さん―

『総司へ』



約束の日。

震える手を必死に諌めながら、僕は封を開けて文面に目を走らせた。

立ち会ってくれた二人にも聴こえるよう、声に出して読み上げる。

中の方も予想通り、土方さんが必死に筆を執った痕跡が滲み出ていた。



『手紙を書いたのは、お前が最後だ。
お前のことだから、だいぶ時間を置いて開いたんじゃないか。
そんな風に予想して、俺は一人で可笑しくなったよ。

お前には、沢山伝えたいことがある。
でもそれを全部書いたら俺の身体が保たない。
だから、最低限これだけは言っておく。

墓参りは、進路が決定するまで来るな』

ここまで読み上げて、何それ…と視線をさ迷わせれば、はじめ君も平助君も僕を見ていた。

沢山ある中から選んだ言いたいことって、そんなこと…?

二人の顔にも、そう書いてあるように見えた。

いつまでもそこで止まっている訳にもいかず、とりあえず理由は読んでおかなければと続きに目をやる。

『お前が教師になれるとは思っていない』

「…って、え!?」

気を取り直して読み始めてすぐ次に書かれていた一文には、もう堪えきれない。

てっきり応援してくれてると思っていたし、もちろんなれることを望んでくれているのだと信じていたのに。

「…信じられない」

思わず不満を吐露してしまう。

「ま、まぁ…続き!続きはきっと…な、総司!」

平助君の必死な宥めの言葉は、虚しい空気を辺りに散らすだけ。

微妙な間が残って、発言した本人も暫くして項垂れた。

そんな状況を変えたのは、やっぱりはじめ君で。

「先を読め、総司」

そんな風に静かな口調で言われてしまうと、何故か逆らえない。

元々大事な内容が云々と言い出した張本人でもあるせいか、まぁとにかく読んでやろうかと再度手紙を見た。

『お前みたいな奴が万が一教師になったら、俺よりも鬼畜で生徒が何人も泣くことになるだろう。

でも、俺よりももっと生徒を大切にするとも思ってる。
孤独を知っているお前なら、大丈夫だ。
だから、何があっても諦めるな。
これから先、お前と出逢うかもしれない子供の為に』

続いていたのは、非道い罵りから一転温かい実に土方さんらしい言葉。

何れ夢へと進む内にぶつかるであろう壁を前にした時に、僕の心が折れないように。

そんな心遣いが感じられた。

もしかしたら、土方さんも昔はそういう岐路に立たされたことがあったのかもしれない。

僕の追う夢は、土方さんが追った夢でもあるのだから。

「…土方さん…」

確かに、はじめ君の言う通りだった。

手紙を読んで良かったと、素直にそう思える。

けれど本当にそう思えたのは、一枚目の最後に書かれた『それから』の続きを読んだ瞬間。

二枚目を捲った僕の目に映ったのは、紙の中央を飾る真っ直ぐな言葉。



『あいしてる』



書くときに力を入れ過ぎてしまったのか…しわしわになった紙が物語る、土方さんからの想い。

「…っ。うっ…」

本当にあの人は、どれだけ僕を泣かせれば気が済むのだろう。

手紙を抱き締めて、一頻り泣く。

そんな僕に、平助君もはじめ君も何も言わずにただ傍にいてくれた。

土方さんが綴った人生最期のメッセージに、僕も返事をしたい。

ちゃんと、土方さんに応えたい。

そう考えられたのは、背中を擦って一緒に泣いてくれた二人のお陰でもあるのだと、内心ではこれ以上ないくらい感謝する。

土方さんからの一方的な約束なんて、関係ない。

僕は自分が逢いたい時に、伝えたい時に、したいようにしてやる。


僕はこれまで敢えて行かなかった墓参りをしようと…土方さんに逢いに行こうと決意した。



―――

次が最終話!

長かった〜


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