この時代と繋がる―拾―
それから土方さんと話が出来たのは、五月に入ったばかりの頃だった。
度重なる戦いを経験して余程疲れているんだろうに、掛かってきた電話口でのその人は、もう全てを悟り受け入れているような…そんな雰囲気で負けを語る。
その会話の合間合間に、大鳥さんの話とあの日に見たこれからの土方さんについての文面が、頭の中にちらついた。
歴史を変えてはいけない。
そんな哲学的な話なんかじゃなく、ただ純粋に土方さんを苦しみから解放したい。
全てを背負って、哀しみだけを抱いて生き続けることは、何よりの地獄だ。
僕の口から、その永劫の呪縛を更に植え付けるような言葉を発することは、決して出来ない。
「土方さんにとって、今一番大切なものは何ですか」
これが言葉を交わせる最後の機会かもしれないと、思いきって訊いてみた。
あの頃の僕たちにとって一番大切なものだった近藤さんがいない今、死を目の前に置きながらも戦い、その中で生き続けている土方さんのたった唯一の支え。
「…新選組だ」
僕が知るあの人の答えなど、わかりきっていた。
五月十一日。
土方さんは新選組が立て籠っているという弁天台場に向けて五稜郭から出陣し、箱館市中で敵からの銃弾を受けて…死ぬ。
島田君などの京都からの仲間や、他にも土方さんを慕って一緒に箱館まで行ったらしい新選組の仲間を助けに向かう、如何にも土方さんらしい決断。
その日は朝から、掛かってくる筈のない携帯を握り締めて過ごした。
やっぱりあの日に交わした会話が最後の電話で、それからはもうずっとカレンダーとの睨めっこが習慣になるような毎日だった。
そして迎えた当日、僕は改めて思い知る。
明日にはもう、土方さんが僕の携帯を鳴らすことは絶対にない。
そんなことを繰り返し考えながら、時折意味もなく激しくなる動悸に胸を押さえながら、運命の一日は驚くほど呆気なく過ぎていった。
所詮戦場どころか同じ時間軸にすらいない僕には、何事もない平穏な毎日と同じ一日。
ただ大切な人の命日に涙すら流すタイミングも掴めないまま、気がついた時には既に日が暮れていた。
心が何か大きなものを喪った虚無感を訴えても、それに対してどうのこうのと動くことも出来ない。
ただ黙って、その日着信が無かったことを受け止めることだけが今の僕に出来ること。
土方さんも、僕たちがいなくなる時には同じだったのだろうか。
身を削られ、心も削られ。
戦うことと、その向こうにある死という安らぎに生きる意味を見出だして、日常を乗り越えたのだろうか。
それならばせめて、あの人の死が穏やかであったことだけを願うのみ。
僕の携帯に着信が入ったのは、それから一週間後のことだった。
―――
今回は短め。
総司視点を貫けた!
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[mokuji]
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