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そんなこんなで迎えた、節分当日。
鬼の面を見事に着けこなした土方さんと、急遽街で買ってきたちょっと安っぽい鬼の面を装着した斎藤君の姿に、屯所内から歓声が上がった。
「すっげぇ……ぴったり過ぎる……」
「土方さん、怒鳴ってる時はいつもあんな顔してるもんなぁ」
「なぁ……斎藤の、ちょっと貧弱過ぎないか?」
「トシ!頑張れよ!」
反応は三者三様というやつで、まさに大盛り上がり。
ちなみに斎藤君がしている仮面は僕の見立てで買ったものだったりする。
歓ぶみんなを面白く眺めていると、いつの間にか升を持った山崎君が隣に立っていた。
「……間違っても、副長に狙い撃ちなどしないで下さい」
「大丈夫だよ山崎君。僕はただ、土方さんにあの面をして貰いたかっただけ。これは違う人に狙い撃ちするから」
豆が入った升を手渡されながら笑って保証すると、山崎君は深々と溜め息を吐いて、
「……斎藤さんも可哀想に」
と洩らして去っていった。
耳にしたからと言って、この僕が真剣勝負に手加減なんかする筈もないのだが。
山崎君が他のみんなにも升を手渡したのを確認した近藤さんが開始の合図を下したのを皮切りに、豆撒きの真剣勝負が開始された。
「鬼は〜外ー。福は〜内ー!」
みんなで一斉に鬼二人に向け豆を投げ始め、斎藤君は土方さんを背に匿って一身にその攻撃を受けた。
しかし次第に頭に来たらしく、土方さんは斎藤君の抑えも聞かずに前に出て、主に集中砲火していた新八さんや平助君に向かって突進していった。
左之さんや近藤さんは笑ってその様子を眺めており、今は誰も斎藤君に向かい豆を撒いていない。
「やぁ鬼さん?暇そうだねぇ」
「貴様……」
面なんか被っているからわからないけど、その下はきっと凄い顔になっているんだろうなと想像するだけで、何だか楽しくなってくる。
「さってと……。鬼は退治しないと、ねっ!」
「……っ」
一掴みした豆を斎藤君目掛けばっさりと投げる。
それを繰り返すと簡単に升の中身は空になり、仕方がないから近くにいた近藤さんから升を拝借して更に攻めた。
斎藤君もやはりただ黙っている気はないらしく、面を剥がして投げ捨て僕を執拗に追いかけてきた。
「ほ〜ら鬼さん?さっさと屯所から出てきなよ」
「何故俺が出ていかなくてはならないのだ!出て行くならお前の方だろう、この疫病神!」
「僕は土方さんの恋人だからいてもいいんだも〜ん。斎藤君は違うでしょ、ね〜お邪魔虫さん!」
こうして僕らは、残る左之さんから新八さん、平助君の持っていた升の中身が無くなるまで、ずっと闘い続けた。
「何か……すっげぇ疲れた……」
「大丈夫ですか?」
「おぉ山崎。茶か……気が利くな。すまねぇ」
「これもありますよ」
「ほぉ。恵方巻か。今年はどっちだ?」
「西南西です」
「っつーと……あっちか」
斎藤君を伸して土方さんの姿を探せば、山崎君の隣で呑気に恵方巻を頬張る様子を目撃した。
幾つもの具材が巻き込まれたそれはそれなりに太く、口を目一杯に開きながら食していくその姿は夜の奉仕の一つにも見えてちょっと卑猥な感じがした。
さらに、何だか微笑んでいる山崎君にも無性に腹が立ってきて、ほのぼのした空気なんか気にせずに、寧ろ切り捨ててやろうかという気合いの元足を向けた。
「土方さん、狡いなぁ。ね、山崎君。僕のも無いの?」
「ありますよ。今、お持ちします」
「うん。ありがとう」
山崎君は斎藤君より簡単だと、ちょっと思った。
「……ったく、結局はお前らの独壇場だったじゃねぇか」
「仕方ないでしょ?斎藤君がしつこいから」
「お前もだろ……」
土方さんが言ったことなど右から左に聞き流し、手を取って指を絡ませた。
怪訝そうにしながらも特に嫌がる素振りを見せないから、僕は握る力を強めた。
「鬼、似合ってましたよ」
「……まだ言うか」
こんなに楽しかったのは本当に久々だと思う。
今年もこんな感じで過ごしたいと、宛てもなくそう願った。
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