いつもと変わりない日常。
これほど退屈なものはない。

規律とか規則とか、守られてなんぼなんだろうけどそれはそれで詰まらない。
かと言って、自ら法度を破るのも馬鹿らしいし、だったら他の誰かが破るのを待つしかない訳で。
それを言ったら土方さんに睨まれて、それじゃあどっかの浪士が馬鹿やってくれるのを待つしかないのだが、生憎今のところそれらしい気配もない。

「あ〜あ!何で日本って、こんなに面白いこと少ない暦なんだろ!正月と大晦日、端午の節句とかしかないし……あ!」

昔の人が考えた暦に文句を言ったって仕方がないのだが、当てつけに愚痴を零して気づいた。

今から一番近い日に、面白い風習をする日があるじゃないか。

「節分とか……まさに土方さんの為にある日じゃない」

気がついた自分を、流石僕だな天才、と自身で褒め称えていた時、ふと人の気配を感じた。

「……土方さんが、何だって?」
「斎藤君。また君〜?」

土方さんにとっくの昔に振られたというのに、全く懲りていないのか未だに何かと突っかかってくる。
この前なんて、模擬試合でわざと目の前で土方さんが誰のものかってのをわざわざ見せてあげたのに、あれは土方さんに対して失礼だとか色々訳のわからないことを言ってきた。

「今度はなぁに?」
「何だと訊きたいのはこっちの方だ。今度は一体何を企んでいる」
「人聞き悪いなぁ。僕はただ、節分が近いから何かみんなでやれないかなぁって思ってただけだよ」

疑い深い斎藤君は、こわ〜い気を放ちながら目を細めて僕を見る。
でも僕は斎藤君なんて全然怖くないから、笑って先を続けた。

「きっと新八さんや平助君も喜ぶよ。あ、何だったら斎藤君も鬼やる?」
「も、ということは、お前も鬼役をするつもりなのか」
「まっさか〜。僕より適役な人がいるでしょ?」

再び、一瞬にして斎藤君の後ろに夜叉が現れた。
もちろんそんなの気にする僕じゃあないけど。

「そんな顔してると土方さんみたくなっちゃうよ?あ、でも僕は君を好きになったりしないけどね〜」

仁王立ちしたまま動かない斎藤君の肩を気軽に叩いて、脇を抜ける。
目的地なんて、一つしかなかった。





「……で?何だこれは」
「何って、鬼の面ですよ。昔のやつなんですけど、これ今度の節分でつけて貰おうと思って」

……あ、右手が拳になった。

そんなに簡単に殴られるようなら今頃僕は死んでいるだろうに、土方さんはいつも同じことをする。
現に今だって簡単に避けて見せた。

「学習しない人だなぁ」
「……てめぇにだけは言われたくねぇよ……」

僕に避けられてしまったのが悔しいのか、今度は知らぬ振りで今までやっていた仕事に戻ろうとする。
だが、そんなに簡単に解放してあげるほど僕は優しい人間じゃない。

「節分って、悪い気を外に出すっていうものじゃないですか。これって、何だか攘夷思想に似てますよね」
「……新選組は思想だとか、んなもんの為にあるんじゃねぇ」
「わかってますけど。でも近藤さんは好きでしたよね、こういうの」
「近藤さんに掛け合う腹か……」

土方さんが考える通り、僕はいざって時の秘密兵器を用意していた。
実はここに来る前に、仲間は多い方がいいだろうと近藤さん、左之さん、新八さんに平助君の部屋を予め回っておいたのだ。
近藤さん以外のみんなは予想通りの反応で、快く了承。
しかも土方さんが鬼役であることを告げれば、楽しみだとまで言ってくれた。
近藤さんも、偶には娯楽も必要だと賛成してくれた。

「つまり、今更土方さん一人の我が儘で中止にする訳にはいかないんですよ」
「誰が我が儘だ!大体、今更って……完全に事後承諾じゃねぇか!そんなにやりてぇんなら、鬼はてめぇがやればいいだろ!」
「や〜ですよー。これは、土方さんがやってこそなんですから」

……ささ、つけてみましょうか。

そう言ってそそくさと素早く背後に回り、後ろから面をつけてやった。

「わぁ!似合う似合う!」

パチパチ手を叩いて、これはみんなにも是非見せるべきだ、なんて思惑で頭を一杯にしていれば、再び舞い降りる拳骨が見えて瞬時に身体を動かす。

「………ってめぇ!いい加減に……!」
「もし協力してくれるなら、夜はたっくさんご奉仕してあげちゃうんだけどなぁ〜」
「はぁ〜!?んなもん、いつも……いや、させられてんのはどっちかっつーと……俺か?」

面も取らずに腕を組んで思考時間に入ってしまった土方さんは、端から見たらひどく滑稽。

……鬼みたいなのに、本当に鬼らしくない。

そんなとこも土方さんらしくて好きだなんて内心では思いつつ、暫くその様子を眺めることにした。

それからのち少し経った後、漸く面を取った土方さんは僕の顔を見るなり盛大に溜め息を吐く。

「…………近藤さんは、もう楽しみにしちまってるんだろ。だったらやるしかねぇじゃねぇか……」
「いやだなぁ。はっきり、僕の誘惑に負けたって言えばいいじゃないですかぁ」
「言う訳ねぇだろ!」



こうして無事鬼役も決まり、節分までの残りの日々を皆で豆を集めながら待つことになった。

ちなみに斎藤君は、土方さんが鬼をやると聞いて即座に「お守りします!」とか何とか言ったそうで、鬼の護衛……つまり、鬼の子分として土方さんに付随するらしい。

僕は、まず斎藤君から撃退してやろうと心に誓った。






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