ある夏の日〜夏の終わりに〜
悩みごとってもんは、一つが解決しても次から次へとよくもまぁ湧いて出てくるもんだ。
一番最近の悩みだった、斎藤と総司の騒々しい喧嘩は以前よりはマシになった。
しかし。
俺は今、新たな問題に直面している――――。
「何故ですか、土方さん。俺は帰りたくありません!!」
「そうは言っても、お前明日は朝から巡察だろうが。だからその辺に………って、なにしてんだ、斎藤」
「………土方さん、やはり俺はあんたのことが…」
「わ!止めろ!!顔が近ぇよ!!それに……酒臭ぇ!!」
あの日、斎藤に俺の気持ちを伝えてから、奴はこの調子だ。
どうやら……酒に逃げているらしい。
………酒を呑むのは構わないが、泥酔する度に店に迎えに行くこっちの身にもなって欲しい。
とはいえ、こうなった原因の一部は確実に俺にある為、頭から怒鳴りつける訳にも行かず、こうして俺が行くしかなくなる。
そしてだいたいこんな風に酔った斎藤に絡まれた時には……。
「トシさん、なんでこんなところで斎藤君と抱き合ってるんですかね〜?」
「……総司、見てないで手伝え」
俺の背後に黒い笑顔の総司が佇む。
「………斎藤君なんて、ほっとけばいいのに」
「そんな訳にはいかないだろうが」
「……いつまでそうやって斎藤君に負い目感じてるつもりですか?……どうせまた、明日の巡察もトシさんが代わるんでしょ」
そうは言いつつも斎藤を背負っているあたり、総司も思うところがあるんだろう。
店主に丁寧に頭を下げて外に出れば、ひんやりとした風が頬を撫でた。
「………もう、秋なんだな」
「そうですね…」
隣を歩く総司とその背におぶられた斎藤を横目で見やると、独りでに頬が弛んでしまう。
日頃喧嘩ばかりしているのが嘘のように、斎藤の寝顔は子供のように穏やかだった。
総司も満更でも無さそうな顔をしていて、なんだかんだ言いながらも二人は良い組み合わせなのかもしれない。
……やっぱり、俺には二人が必要だ。
だからきっと、俺はこれからも斎藤の駄々も総司の甘えも受け入れていくんだろう。
「ねぇ、トシさん」
「ん?」
「あんまり……斎藤君の面倒、見ないで下さいね」
「……それは……」
「トシさんは……僕のですから」
総司にしては控えめに、それでもいつものような我が儘を言われる。
相変わらずのその態度に、思わず苦笑が洩れてしまう。
「それなら、その分お前の我が儘に付き合ってやりゃあいいんだろ」
「……ん、まぁそれで……勘弁してあげます。じゃあ今夜は僕、トシさんの部屋に「今日は勘弁してくれ」」
「お、トシに総司。戻ったな。お帰り」
「ただいま、近藤さん」
屯所の入り口で待っていてくれた近藤さんは、ぐっすり眠っている斎藤の頭をそっと撫でた。
「……トシは、幸せ者だな。みんなに愛されて」
「……そうですね。僕としては複雑なんですけど」
安らかな顔をした寝顔を囲んで、近藤さんも総司も穏やかな表情をしていて、確かに俺は幸せ者なんだろうなと思った。
……いつまでも、このままで。
そう願ってしまうのは、侍としては失格なんだろうか。
例えそうだったとしても、今、この時だけは、侍ではなく独りの人間として、この未来を案じたかった。
そして翌日。
「……斎藤君。僕たち、結婚するんだ。だからトシさんにはもう近づかないでね」
「な!なんだと!!っ……」
「総司!!突拍子も無い嘘を吐くんじゃねぇ!!それから斎藤!!二日酔いで頭を抱えるなら、もう酒は止めておけ!!」
「ま、まぁ、トシ。その辺に……」
やってきた日常は、やっぱりいつもと同じだった。
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