ある夏の日〜番外編・二〜


近藤さんのお陰で、無事に土方さんを仕事から離すことが出来た。



しかし。



「トシさ〜ん。僕、お腹空いちゃったなぁ。なんか買って下さいよ〜」
「はぁ?んなもん、自分で買「ふざけるなよ、総司。土方さんは今休養中なんだ。土方さんを頼るんじゃない」」

俺は、土方さんと二人になる機会を失い、挙げ句の果てに一番厄介な総司がついてきていた。

総司がいれば、土方さんは休めないだろう。

……ここは、俺が土方さんの安らぎを守らなくては。

俺の頭の中では、土方さんを無事に休ませ、感謝だけでなく出来ればあのすらっとした手で頭を撫でて貰う、そんな場面が浮かんでいた。

「斎藤君。何度も言うけど、僕はトシさんとは恋人同士なんだよ?休暇の時に二人で居なくて、いつ一緒に居られるの?」
「…お前の場合、いつも俺の部屋に居座ってるだろうが」

土方さんの疲れたような声に、何としても総司を土方さんから離さなくては、と考えを巡らせた。





俺達は、市外の宿に腰を落ち着けた。

「土方さん、お茶が入りました」
「…あぁ、すまねぇな」

俺の入れたお茶を土方さんは飲み、上手かったありがとう、なんて俺に微笑みかける。

…あぁ、この人の笑顔が俺の原動りょ「土方さ〜ん。僕、歩き疲れて足が痛いんですけど〜。揉んでくれません?」
「……土方さん。今から総司を抹殺します」
「ちょ、ちょっと待て、斎藤!!」

俺と土方さんのひとときを邪魔する遠慮のない男に殺意を覚え、刀に手をやれば土方さんが必死になって止めてくる。

そんな土方さんにも、言い難い感情が沸き上がってきた。

「……何故ですか」
「え?」
「何故……総司なんですか…。こんな…土方さんに甘えてばかりで、迷惑しかかけないのに……」
「斎藤…」

不覚にも涙が込み上げて来て、慌てて部屋を飛び出した。



「……土方さん…」

土方さんを想えば、こんなにも苦しい。

だが、こんな感情も全て含めて愛おしかった。

……総司が羨ましい。

あの人の身体も心も手に入れた、総司。

やはり、長年培ってきた絆には適わない……。



「…斎藤?」
「…っ!?」

探しに来たりする土方さんが、少し憎かった。

背後にその存在を感じながら、それでも振り向けない。

今の俺の顔は、酷く惨めだから…。

何とかして顔だけでも元に戻そうとしていれば、不意に頭に置かれた、温かい手。

ゆっくりと撫でられて、俺はまた涙が止まらなくなった。

「……すまねぇ、斎藤。俺は…お前の気も知らないで…」
「謝らないで下さい。俺が勝手に……想っていただけですから……」

……なんとも辛い告白になってしまった。

「…土方さん。一つ…訊いても良いでしょうか…?」
「あぁ、なんだ?」
「…どうして、総司なんですか?総司の何が…」

俺の質問に土方さんは、ふっ、と笑う。

「…あいつは…確かに我が儘でサボり癖もあるし、いろいろ面倒な奴だが…あれでも、可愛いところがあるんだよ。あいつの我が儘なら、俺は…許せちまう。…どこが良いのかなんて、照れくさいし言えねぇけど……これじゃあ駄目か?」



落ち着いて見上げた土方さんの瞳は凄く穏やかで、総司への愛が溢れていた。

それだけで、俺も幸せな気分になる。

だから、俺の答えは一つだけ。



「………お幸せに」





屯所への帰り道。

「土方さ〜ん。僕疲れちゃいました〜。負ぶって下さいよ〜」
「総司!お前のせいで土方さんだってお疲れなんだ!自分で歩け!」
「そんなこと言って。本当は斎藤君だって土方さんに負ぶって貰いたいんじゃないの?」
「あぁ。負ぶって貰いたいに決まっているだろう」
「駄目だからね!」
「……お前らは、喧嘩しなきゃいられねぇのか…?」




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