ある夏の日〜不安なんですけど〜
……凄く不安なんですけど。
任務で数日間屯所を空けるという、トシさんと斎藤君。
二人を見送りに来てみたが、内心は複雑。
「……なんで斎藤君なんですか」
不満が口から出る。
「……仕方がないだろ。今回は密偵に近い仕事なんだ。お前には無理だろ」
「だったら斎藤君だけでいいじゃないですか。なんでトシさんまで……」
「土方さんは公用の任務だ。俺はその対応の間の実地調査の担当をする。任務に余計な口出しは「斎藤君は黙っててよ」」
最近、トシさんとの間を邪魔する厄介者、斎藤君。
トシさんは信じないけど、斎藤君は確実にトシさんを狙っている。
そんな二人を黙って送り出すなんて、恋人としては絶対に無理。
出来ればついて行きたいけど、近藤さんの説得に頷いた手前、我慢するしかない。
だから、精一杯の念押しをした。
「…斎藤君。トシさんになんかしたら……ただじゃおかないからね」
言われた斎藤君は、腹の立つことに………笑っていた。
二人が出かけてから一週間。
昨日までは我慢できた。
でも今日は、もう無理。
「そ、総司。そんな稽古の仕方では、た、隊士が…」
「…なんで、まだ帰って来ないんですか!」
……パァッン…。
僕は今、隊士に稽古をつけている。
……いや、憂さを晴らしている。
「お、おい、新八!総司を止めてくれ!!」
「いや、無理だって!あんなの!!いくら俺でも…」
「……やっぱり、僕の目を盗んであの二人……」
次の隊士めがけて木刀を振り上げた時。
「おい、総司!!てめえ何してやがる!!」
この一週間、ずっと聴きたかった声。
「トシさんっっっ!!」
木刀なんか放り投げて、僕はトシさんの腕の中に飛び込んだ。
……あぁ、久々のトシさんの匂い…。
「……はぁ。良かった…」
「ちょ、近藤さん。全然良くねぇよ!危うく木刀が腹に刺さるとこだったってのに…」
僕の投げた木刀が、新八さんのお腹の丁度右側の壁に刺さっていたことを、僕は知らなかった。
「……で、なんでトシさんの首に赤い跡があるんですか?」
近づいて気づいた、首元の赤い跡。
「蚊だよ蚊!!」
「…………蚊」
確かによく見れば、虫さされにも見える。
しかしいくら虫と言えど、僕のトシさんに触れて、しかも血まで吸うなんて……。
「…斎藤君」
「なんだ」
「……君、なんでトシさんを虫から守らなかったのさ」
「総司。無理に決まってんだろうが、そんなこと」
トシさんが斎藤君を庇うことに、無性に腹が立つ。
「じゃあ、トシさん」
「…なんだよ」
「なんで蚊なんかに刺されたんですか」
「そんなもん、寝てる間に気づいたら刺されてたんだよ!!」
その後、斎藤君を部屋から追い出し、僕はトシさんを説教諸々により、朝まで離さなかった。
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