ある夏の日〜俺の居場所〜
…全く、昨日から散々だ。
一緒に風呂に入っただけで、総司に斎藤との仲を疑われ、そのまま部屋まで引きずられて、言い争いだけでなく、罰だとかほざいてあれやこれやを強要され……これは思い出したくない。
今朝は頭と腰が異常に痛く、やっとの思いで起き上がって広間に顔を出せば、総司と斎藤がいがみ合い、部屋の隅に固まる新八や平助、左之助の姿。近藤さんと伊東さんは蛇に睨まれた蛙の如く凍っていた。
なんとかその場は丸く収めたが、総司と斎藤はあれからずっと、互いを親の仇のように睨み合う。
…あの二人、意外と仲が良いと思っていたんだが…。
新選組の隊務にだけは影響が出ないようにしなければ…。
いや…それ以前に、俺が持たないかもしれない、この状況。
現に今も。
「…土方さん。今夜は土方さんがゆっくり休めるよう、俺が傍であなたを守ります」
「なに言ってんの、斎藤君。僕が一緒に寝るし、大丈夫だよ」
「お前が一番危ないんだ。それに、一緒に寝る、だと…ふざけるなよ」
「僕とトシさんは『恋人』同士なんだよ?一緒に寝てなにが悪いのか、僕にはさっぱりわかんないなぁ」
…斎藤。
ここで冷える殺気を放つのは止めろ。
そしてその刀の柄に左手を持っていくのも止めろ。
…総司。
恋人の部分を強調するのは止めろ。
それから今日はお前に付き合えるほど、俺の体調はよくないから、一緒に寝るのは止めろ。
二人の滑るような会話を聞きながら、もはやどこにつっこんでいいのかわからず、この惨状をただ傍観する。
…なんか…疲れた。
盛大にため息をついた時、部屋の外から声がかかる。
「……トシ。い、いるか…?」
「…あぁ。どうした、近藤さん」
障子をそっと開けて顔を覗かせた近藤さんの視線は、すぐに俺からあの二人に向かう。
「…あー。そのー…。だ、大丈夫か…?あれ…」
二人は近藤さんの出現にも気づかずにまだ言い争っている。
「…あぁ…」
近藤さんの心配そうな顔を見て、ふと名案が浮かんだ。
「…なあ、近藤さん。頼みがあるんだが…」
「お、なんだ?お前の頼みならなんでも聞いてやるぞ」
「総司、斎藤も!その辺にしておけ!面倒だし、今日は二人ともここで寝ていいから」
「えー」
「…はっ」
「ちなみに、今日は近藤さんも一緒だ。四人くらいなら…ちっと狭いかもしれないが、寝れるだろ。な、近藤さん」
見ると近藤さんは楽しそうに布団をひき始めていた。
……早い。
「…トシ!俺はお前の隣でいいよな?」
「…あ、あぁ」
こうして俺の右隣は近藤さんになった。
「じゃあ、僕はトシさんのひ「そこは俺だ」」
「なんでそうなるの?親友である近藤さんは右で、恋人である僕が左でいいじゃない」
「お前はなにをするかわからないからな。そこは俺だ」
「斎藤君はただの副長至上主義でしょ。追っかけは黙っててよ」
「誰が追っかけだ!!俺はな、ただ土方さんの身を案じて…」
また、二人の言い争いが再開した。
隣を見れば、嬉々として近藤さんが。
「いやぁ。こんな風にみんなで雑魚寝なんて久々で、なんかワクワクするなぁ。昔はよく…」
なんて、回想に浸りながら枕をいじっている。
……ここ、俺の部屋だよな……?
もはや自分の居場所に確信が持てず、俺は暑い夜を過ごした。
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