ある夏の日〜俺の親友〜
今日の新選組屯所は、朝から穏やかじゃなかった。
…きっかけは、総司の一言。
「斎藤君。いっとくけど、『トシ』さんは僕のだからね?手、出さないでよ」
そして、斎藤君がキレた。
「………土方さんは、物ではない。口を慎め」
2人の放つ殺気はそれはもう尋常ではなく、さっきから新八たちは部屋の隅に避難していた。
総司が突然こんなことを言い出したのは、どうやら昨晩にあったことに原因があるらしい。
昨夜の巡察はトシと斎藤君が当番で、共に帰還した後2人だけで風呂に入り、揃って風呂場から出てきたところをトシを迎えにきた総司に見られた…ようだ。
おかげで昨日、トシは散々な目にあったらしく(詳しくは伏せておく)、今朝はまだ姿を見せていない。
そして矛先は…当然斎藤君に向かう。
今の2人は互いに睨み合ったまま、動かない。
…まるで真剣勝負のようだ。
2人は新選組きっての剣豪。
……止める俺の身になってくれ。
頭を抱えた…その時。
「あらぁ、なにしてらっしゃるの?お2人とも」
一番、場違いな人…伊東さんがやってきた。
「お2人とも、刀に手なんか置いて、朝から物騒ですわね〜。新選組では、朝食中にも訓練なさるのかし『あんたは黙ってて下さい』」
緊張感のない甲高い声が感に障ったのか、2人は綺麗に同調した。
「…まぁっ。それが年上に対する態度なんですか!?私はこれでも…」
「い、伊東さん…、ちょ、ちょっと…」
空気が読めない参謀を、必死にこっちに引っ張って、大事になる前に止める。
…頼むからこれ以上悪化させないでくれ。
「なんですの、近藤さん。私はこれから、彼らに礼儀のなんたるかを…」
『…うるさい』
またしても2人は揃い、目線をこっちに……伊東さんに向けてきた。
……目が怖い。
これにはさすがに、伊東さんも黙る。
良かった、静かになった…なんて喜んでる場合じゃない。
元の原因をなんとかしなくては…と必死に頭を回転させていたが。
「…ど、どうしてこんな時に、ひ、『土方君』はいないんですか!!」
と、伊東さんは余計なことを口走り…。
2人の視線と殺気がまたしてもこっちに向けられた。
…俺は今日、殺されるかもしれない。
…助けてくれ、トシ。
俺は、今のこの状況から唯一己を救えるであろう親友の名を心に念じながら、静かにその時を待った。
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