ある夏の日〜僕のたからもの〜


「…土方さ〜ん。土方さ〜ん」
「……」

…昨日からずっとこの調子。

そんなに怒んなくたっていいのに。

…ただ2人の喧嘩がちょっと面白そうだったから、近藤さんを少しけしかけてみただけなのに。

…最終的には仲直りできたんだし。

それなのに、この僕を完全無視。

…まったく、心が狭いんだから。


土方さんの意識をこっちに向けたくて、その背中にそっと抱きつく。

…払いのけられるのを、覚悟してたんだけど…。

土方さんはびくともしない。

それどころか、後ろにいる僕に体を預けてくる。

…心なしか、身体が熱い気がする…変な意味じゃなく。

顔を見ると、顔を真っ赤にして辛そうに瞼を閉じている。

息も荒い。

額にあてた手に、すごい熱が伝わる。

……またこの人は…無理をしたな。

そんなことを思うと同時に、肝心な時に頼られない自分に、無性に腹が立った。



「…トシっ!しっかりしろ!!」

あまりの高熱で土方さんが意識を手放したため、仕方なく僕が身の回りの世話をしていると、誰かに聞いたんだろう…近藤さんがやってきて、病人の安眠を妨げるほどの大声を放つ。

「近藤さん?そんな大きな声出したら、いくら頑丈な鬼でも、目覚めちゃいますよ?」
「あ、あぁ…そうだな」

焦って口を押さえてる……近藤さんって可愛いなぁ。

「ただの風邪と、ただの疲労だそうです。いっぺんに来ちゃったんですね〜」
「……俺が……トシに甘えてばかりで、仕事を任せてばかりだから…」
「…いいんですよ。土方さんは好きでやってるんだから。倒れるまでやせ我慢する、土方さんが悪いんです」

さっきよりは若干落ち着いてきた様子を見せる病人を見つめ、割と本気で言った。

「……総司は……本当にトシが大切なんだなぁ…」

……そんな恥ずかしいこと、遠い目をして言わないで下さい。

「安心しろ、総司。トシもいろいろ言ってはいるが、お前のことを大切に思っている。喧嘩するほど仲がいいってな、はっはっはっ」


その後近藤さんは、散々恥ずかしすぎる発言を繰り返したところで、隊士に呼ばれて去っていった。


…わかってる。

僕が悪戯したりからかったりすることでしか、愛情表現できないのと、同じ。

土方さんは、怒ったり眉間にシワを寄せることで、それを返してくれている。


「…土方さん…」
「……そう、じ…?」

…びっくりした。

気がつけば、土方さんはうっすらと目を開き、ぼんやりと僕を見ていた。

「…どうした…?そんな顔して…」
「…わかりませんよ…。僕、どんな顔してます…?」

土方さんはそれには応えず、ただそっと…僕の手を握った。

……弱々しく。

「……もう少し、頼ってください。あなただって…人間なんだから。いくら喧嘩してるからって…。僕、これでも結構心配して…」

土方さんは、まるで珍しいものでも見たかのように、目を見開く。

……なに、その反応。

悔しいから、言ってやった。

「……僕、昨日からあなたにろくに触れられなくて、イライラしてるんです。『トシ』さん。治ったら…覚悟してくださいね?」




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