ある夏の日〜その後〜
近藤さんに秘密を暴露されてから、一週間。
仕事以外の話を完全に遮断し続け、背中を丸めて去っていく近藤さんの後ろ姿を目にして、多少の罪悪感が浮かぶ。
…さすがにやばいか。
そろそろ解禁してやるか、と今朝起きて決めた。
その時は頭に血が昇ったが、本当はとっくに許していた。
近藤さんの気持ちもわからなくはなかったから。
それでも、あの天然なところを少しでも直して欲しかった。
そこが良いところなのは確かだが、それがあの人自身を害するかもしれない。
…だから俺は鬼になった。
だが、今日からは声をかけられたらいつも通りにしよう。
これ以上やると、…総司が煩い。
恒例の隊議の後、近藤さんが声をかけてくるのを待つ。
…しかし。
…近藤さんはそのまま出て行った。
その時は珍しいこともあるもんだ、くらいにしか思っていなかったが。
…おかしい。
今は夕暮れ時。
今日一日待っていたが、一度も声をかけられなかった。
…今までそんな日は無かったんだが。
仕方なく、俺から話しかけることにした。
「近藤さん」
「…お、おう。なんだ」
俺の顔を見るなり、緊張が走るのがわかる。
…やりすぎたか。
「…近藤さん、あのな…」
「ト、トシ」
「…なんだよ」
許してる旨を伝えようとしたが、途中で止められてつい眉間にシワが寄ってしまう。
若干近藤さんもびびっている。
それでも何故か咳払いし。
「…トシ。俺は、あ…謝らんからな。話したくない、のならそ…それでも俺は、かまわん…。おっ、俺には…そ、その…」
…明らかに言わされている。
「…近藤さん」
今度は俺が、低い声で静止した。
「……誰に頼まれた?」
「…い、いや、その…」
聞かずもがな、誰だかはわかる。
「……総司だな」
「い、いや、違う、違うぞ!確かにあいつには、お前にこう言えばなんとかなると言われたが…!」
「あんたはっ!…あんたはお人好しすぎんだよっ!!」
「…す、すまん…」
つい怒鳴ってしまってから、目の前のしゅんとする近藤さんの姿を見て、溜め息が出る。
「……はぁ。…とにかく、もうあのことについては怒ってないから。いつも通りにしてくれ」
本来の目的を達すると、近藤さんはみるみるうちに顔を綻ばせ、子供みたいに抱きつかれた。
機嫌よく去っていくその姿を見て、やっぱり俺はあの人に甘いことを自覚した。
そんな自分に苦笑し…。
「…あぁあ。近藤さんに抱きつかれちゃって…。土方さんも近藤さんも、僕のなのに〜」
その声を聞いた瞬間、頭の中で何かが切れた。
「…………そーーーじっ!!!」
その日から土方は、総司と口をきかなくなった。
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