ある夏の日


どんなに暑い日でも、恋人の身体は簡単には離せない。

それが僕の性分。

それなのに、やっぱりあなたは相変わらずのつれない態度。

「おい、総司。いい加減にしろよ」

隊にとって重要な文書を整えてるんだから、仕方ないのかもしれないけど。

さっきからこの人は、邪魔だとか、暑いだとか、煩いだとか。文句ばっかり。

それでも無理に離そうとしないだけ、愛されてるんだろうか。

…いやいや。

こんなことでしか、愛情を感じられないなんて、哀しい。

「だって、こうして僕から動かないと、土方さんからは何もしてくれないじゃないですか。…意外と気が小さいんだから」
「あのなぁ!…だからって、何も今じゃなくてもいいだろうが」
「それじゃあ、今晩はここに来てもいいんですね?」

約束してくれないなら離さないぞ、と目線で訴えると、少し照れながらも頷いてくれた。

照れた顔も格好いいな、なんて思ったことは流石に黙っておこう。
これ以上照れると、怒鳴る。
長い付き合いからわかる、この人はそういう人。

でも、それだけじゃ我慢出来なくて、調子に乗って口づけをねだったら、馬鹿やろうって言ってちょっと叩かれたけど、望み通りにしてくれた。

言ってみるもんだ。

「…っん、ふっ」
「総司…」

深くて甘い口づけに、どうしようもなく酔っていた、その時だった。

「トシ、入るぞ」

突然、近藤さんが障子を開けた。

…夢中になりすぎて、気配に気づかなかったらしい…お互いに。

「…えーっと」
「なっ!な、あ、こ、近藤さん。これはだな、そ、その…」

普通なら有り得ない光景を目撃してしまって、可哀想なくらい固まってしまった近藤さん。

恐らく一番知られたくなかった相手であろう人を前にして、面白いくらい慌てている土方さん。

そんな二人を見ているのは楽しかったけど。

…ごめんなさい。土方さん、近藤さん。

悪いけど、僕がこの関係を一番知っていてほしい相手は、近藤さんなんだ。

「近藤さん。僕、土方さんが好きなんです。…こういう意味で」

そう言ってもう一度、土方さんに口づける。

「…総司!」

焦って引き離そうとする土方さんに、無理やり抱きつく。
僕たちの攻防を止めたのは、意外にも近藤さんだった。

「トシ」
「な、なんだ?」

近藤さんが怖い顔で、土方さんを見つめる。

「トシは…、幸せか?」
「は?」

…近藤さん、何だか父親みたいですよ。

思わぬ質問に固まっていた土方さんは、一度僕を見て咳払いした。

「…あぁ。幸せだよ、俺は。だから、何よりも大切にしたいと思ってる」
「土方さん、好きです」

…やばい。声に出ちゃった。

土方さんに睨まれる。

「そうか…。総司は…聞くまでもなさそうだな」
「はい。もちろん、凄く幸せですよ。なんといっても、土方さんは見てるだけでも面白いから」
「総司!!…っ、てめぇは…!」
「まぁまぁ」

僕たちの気持ちを確認して落ちついたのか、近藤さんはもういつもの穏やかな顔で笑っていた。

「二人が幸せなら、俺はそれでいい。それが俺の幸せでもあるからな」

…やっぱり近藤さんは、懐が深いなぁ。
言って良かった。

「よし。今日は赤飯でも炊くか」
「近藤さん、ちょ、ちょっと待て。そんなことしたら…」

二人の漫才を見ているのも幸せだな、なんてちょっと思った。




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