動けない総司の変わりに、必死に腰を振って自らの快楽点に来るように動いた。
湧き上がる快感に半分酔いながらも、もう半分の意識は総司の様子を伺う。
赤い顔をしたまま俺を見つめるその浮いた表情は何とも卑猥で、その虚ろな瞳に再び口づけを贈りたくて上半身を傾けた。

―――ちゅ。

閉じた目蓋からは塩っぽい味がした。

「大丈夫、大丈夫だよ。はじめくん」
「…そうじ。一緒にいこう」

もう一踏ん張り、自らの身体を上下して共に時間を共有した。
快楽の証である声はあまり口から出ず、若さ故の激しさも殆どない。
それでも俺にとってのその時間は何よりも尊くて、暖かかった。

「ふっ…ん、そぉ、じ!」
「はじめくん…」

最期まで、俺はお前についていく…。





翌日。

どうやら今日は総司の方が早起きだった…というか、奴は全く寝なかったらしい。
目許が赤く腫れ、泣いていたことが丸わかりだった。

「総司。何故起きている」
「だって…勿体無い感じ」

フフッと笑うその顔は相変わらずで、起き上がってズレた上掛けを掛け直して伝わる温もりに寄り添った。

この時俺は、不思議とこの時間の終わりが近いことを感じていた。
総司もそれは同じだったようで、午前中はずっとそうして二人、寝ることも喋ることもせずにただ互いの呼吸だけを感じていた。

やがて、予感は現実になる。





遅めに朝餉を取り、迎えた午後。
庭先に入って来たらしい黒猫を見つけた総司に促され、部屋を出てその猫と戯れる。
庭に降りて近づいてもその猫は逃げることなく大人しく抱え上げられ、腕の中のその温もりに頬ずりをさせてもらった。

「…はじめくん。こっち来て」

呼ばれて、放って置かれて拗ねたのかと猫を離して傍らに戻ると、総司はまたもやボロボロと涙を流して俺を見た。

「ホントはね、我慢してそのまま逝こうって思ってたんだけど…やっぱり無理みたい。ねぇ、はじめくん。聞いて?」

そして、初めて総司は言った。

「死にたくない、死にたく…ない、よぉ。何で、ここで終わりなの…?僕、あの二人の傍で死ぬって、決めてたのに…。まだ、死にたくない。死にたくな、いっ…」
「…っ、総司…」

それが本音だろう。
当たり前に誰もが思う、普通のこと。
むしろ今まで言わなかったことの方が不思議なくらいだ。

それを言わずに耐えたのは、きっと意地と誇りだ。
何と気高い武士なんだ、この男は。

だからこそ、俺は涙を堪えて目の前で流れる涙を掬うことで、それに応えた。
ここで俺まで崩れれば、総司の心が折れてしまう。
総司には、気高いままで最期に向かって欲しかった。

「大丈夫、なんだろう?もう…泣くな」

この時ばかりは甘やかしたりしない。
きっと、この場にいたのが俺ではなく近藤さんや土方さんであったとしても、同じ選択をしただろう。

総司が泣くなら、代わりに俺は笑おう。
俺がその道まで、引っ張り上げてやる。
だから後は、お前自身が前を見て歩け。

その想い、願いはちゃんと総司に届いたらしく涙でグチャグチャになった人間らしい顔で笑った。

―――にゃあ。

庭から猫の鳴き声が聴こえてそちらを振り向いた時、一瞬俺の手を温もりが包み込む。

「…ありがとう、はじめくん」

それを聞いて視線を戻した時にはもう、目の前の目蓋はしっかりと閉じられていた。
繋がれた手は握っても握り返されることはなく、眦から再び涙が零れることもなかった。

「…総司…?」

呼びかけても反応がないことで、やっと頭が理解する。

安らかな顔が、何よりも救いだった。





それから俺は総司の唇にそっと口づけを落とし、自分の世界へと戻る為にその家を出た。
ちなみに今の俺の手荷物の中には新たな仲間が増えていた。

―――総司。

彼の傍らにはいずれあそこに戻って来るだろう彼の姉に宛て文を置き、そこに看取った者としての名前と、形見分けとして彼の刀を持ち出した旨を記した。
勝手だとは思ったが、どうしても彼の物を一つ傍に置いておきたかったのだ。

あの日、土方さんはけじめをつけた後は俺の自由だと言った。

「どうしようか、総司」

携えた刀の柄に触れ、行く先を相談する。

…総司はどうしたい?

…僕ははじめ君に合わせるよ。

…じゃあ追いかけるか、あの人を。

…そうだね、二人で驚かそうか。きっと凄い顔して怒りだすよ。

そしてきっと、笑って迎え入れてくれるだろう。

俺は総司と二人、会津を目指して再び歩み始めた。





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