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目を閉じて意識が無くなった後、俺は屯所にいた。
要するに夢を見ている訳だが、不思議と感覚が現実的でどこか既視感もあった。
そう思ったのは、昔あったことが目の前で起こったから。
ドタドタと騒々しい足音を立てて襖が開かれ、隊士が急いた様子で言った。
「さ、斎藤組長!土方副長が…!」
「副長!?副長がどうした!!」
「ろ…うしに、襲われ怪我を…」
「…っ」
聞いた瞬間、俺は部屋を飛び出し副長室へと向かった。
今度は俺がドタドタと煩く騒がしくしながら廊下を走り、ろくな声も掛けずに襖を開けた。
「土方さんっ!!」
「しーっ!」
「そう、じ」
俺より早く駆けつけていたのか、先に来ていた総司は俺の大声に人差し指を立てて俺を制した。
見れば、傍には布団が敷かれ土方さんが眠っていた。
「浪士に襲われて脇を負傷したんだって。傷はそんなに深くないみたいだけど、帰ってくるなり倒れちゃって…」
直ぐに眠っちゃった。
そう言われて、傷も深くないのならと少し安堵した。
ふと総司を見ると、黙って土方さんを見つめる横顔が憂いを帯びて儚い。
「総司、土方さんは大丈夫なんだろう…?」
「え、あ、うん。もちろん」
「ならば、何を不安に思っている?」
「不安っていうか…」
…たいして僕、守れてないんだなって。
フッと笑んだ後続いた言葉は、俺にとっても他人事ではないものだった。
土方さんの傍にいて、土方さんの命令を忠実にこなして少しでもこの人の負担を減らそうとしてきた。
しかし肝心の土方さんの心身までは考えたことはなかった。
守ってきたと、守れてきたと思っていたもの。
俺は、何一つ守れてなどいなかったんだ。
「ねぇ、斎藤君。僕、もっと頑張るよ」
その日から総司は、稽古こそ相変わらずサボっていたが隠れて人知れずこっそりと、剣の腕を磨いていた。
それは俺しか知らないことで、偶に打ち合いに付き合うこともあった。
夢は、そこで終わり。
目蓋を開けると日の光を感じ、朝なんだと頭が理解した。
夢の内容を思い出し、俺にとって楽しい思い出はこれだったのか、もっと他にもあるだろうと少し複雑な思いを抱いてしまう。
隣には変わらず総司が眠っていて、頬を撫でると温もりが伝わってくる。
その温もりが暖かく、あぁ、総司が生きていると頬が緩む。
「総司…。今日は、何をしようか」
総司と共に迎えた夜明けを、こんなにも美しいと感じたのは…初めてだった。
後編へ続く。
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