それから、俺の予想通り新選組は京を離れることになった。
鳥羽伏見で仲間を失い、流れ着いた先の大阪では主君を信ずる心を見失った。
先に送っていた近藤さんと総司と共に江戸へ向かう。

まさか、こんな形で郷里に帰ることになるとは思っていなかった。
当然誰も、喜びを顔に浮かべる奴はいない。

そして、近藤さんの傷が癒えた頃、幕府から甲府へと向かうよう指示が出された。
そこに行くまでの道、俺たちは日野を通る予定だ。





「総司」
「連れてって下さいよ、土方さん」

寝たまま俺の袖を掴む総司に、俺は何も言えない。
甲斐甲斐しく総司の世話をする斎藤は固まり、近藤さんは辛そうに眉を寄せた。

辛いながらも言わなければならないと意を決し幕府からの通達をありのまま伝えれば、久々に総司は駄々をこね始めた。
最早笑えない冗談になってしまったが。

はっきり言って、これから行われる甲府での戦はどう考えても不利でしかない。
そんな中に総司を連れ回す訳にもいかない。
しかし日野は総司も縁の故郷だ。
そこに行きたいと願うのは当然のこと。
俺が逆の立場なら同じだったろう。

そしてそれが近藤さんを動かしたんだろう。
何も言えずにただ黙っていた俺と斎藤を後目に、近藤さんは総司の手を取り言った。

「お前は、天然理心流次期総代だしな。よし、一緒に行こう」
「はい!」

俺はもちろん止めに入った。
しかしそれは、総司と近藤さんにしかない強い師弟の絆で敢えなくはねられ、俺は仕方なく了承する。
そんな二人の様子を俺と同じように端から見ていた斎藤は、俺の横に来ると徐に口を開いた。

「大丈夫でしょうか、総司は…」
「無理はするなと言ったが…ありゃ歩くのだけで無理になるんだろうな。悪いが、総司からは目を離さないでやってくれ」
「もとより、そのつもりです」

斎藤は、何だか以前よりずっと凛々しい顔をするようになった。
在る意味では頼もしいが、それが総司を守りたいという気持ちから来ているのだと思うと辛い。

未だに斎藤は、答えを出せずにいるようだった。
日々、黙って総司の面倒を見ている。

そして俺たちは、全員で日野に向かったのだった。

日野へと辿り着いた時、総司の体力は限界だった。
それでも姉を含んだ昔馴染みに逢った奴は、気丈に振る舞い弱味を見せない。
その痛々しい姿を見ているだけで、こっちの胸が切り裂けそうだった。



総司の冗談に笑う姉も、本当は総司の病を知っているのだ。



夜、総司の休む部屋に赴いた俺に総司は言った。

「僕、やっぱり無理みたいだ…。江戸に戻ります」

どうしてこうなったのか。

咳を繰り返しながら苦しそうに告げられた哀しい別れの台詞。
けれど誰より辛い筈の総司は笑っているのだ、昔のまま。

いずれ、江戸にも敵が入る。
その時のことを思うと、俺は総司を返したいなどと思える筈がなかった。

それでも俺は、決断しなくてはならないのだ。

「すまない、総司。すまない…」

総司の痩せ細った体躯を抱きしめ、声を殺して泣いた。
俺を好きだと言った男を、俺は自ら切り捨てる。

戦でならばいくらでも勝つ方法は導き出してみせる。
しかし俺は、たった一つの病の前で膝を折るしかないのだ。

力のない自分に、やり場のない怒りがこみ上げてくるのを唇を噛み締めることで耐えた。

「土方さん…。ずっと、生きて下さいね。大好きだから…」

最後の言葉は、残酷に俺の胸を貫いた。





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