熱を知る


……刺激が足りない。



僕の恋人・土方歳三は、仕事の鬼であり、頑固で往生際も悪く、さらには生真面目。

夜遅くまで仕事をこなし、夜こっそり会いに行っても、全く相手にしてくれない。

仕方なく、僕は毎回先に布団に入って、机に向かう恋人の後ろ姿を見つめる。



僕が布団の中で見る夢には、ほとんど土方さんが出てくる。

昨日は、以前酒に酔った土方さんに沢山愛して貰った時の夢を見た。

「……あの時は、良かったなぁ。愛されてる、って感じがしたし。余裕がない土方さんってのも…」

……格好良かった。

次の日には土方さんに記憶は無かったけど、僕はずっと覚えてる。

それも、鮮明に。

あんなに熱い夜は……あの日以来、来ない。



「………いいこと思いついた」

来ないのなら、こっちから出向いてやればいい。

自然に、笑みがこぼれた。

そうと決まれば、まずはお酒の調達をしなければならない。

あの時と同じ、強くて、一杯でも簡単に酔える酒を。





「左之さん、一杯で酔える強いお酒が欲しいんですけど…いいの知りません?」
「……なんだ、酔いたい気分なのか?」
「ん……まぁ、そんなところですかね…。で、何かあります?」

そうだなぁ、と暫し考えた左之さんは、ふと何かを思い出したように言った。

「……そういやぁ、確か土方さんがお偉いさんにすげぇ旨いが強いっていう酒を貰ったって言ってたっけ…。こんなんじゃ呑めねぇってぼやいてたなぁ……」
「ふーん、そっか。貴重な情報、ありがとう」

あんまり呑み過ぎんなよー、なんて間抜けな声を聴きながら、僕の思考は既に、どうやってあの人に酒を呑ませるか、ということに及んでいた。





目的を達する為、副長室に向かった僕は、部屋の前でぼんやりと佇む土方さんを見つけた。

「…土方さん?どうしたんですか?……あ、もしかしてまた上手くない俳句でも作ってるんですかぁ?」
「……なんでそうなる!大体、上手くないは余計なんだよ!」
「…はいはい。夜なんだから、静かにしましょうねー」
「……てめぇ…」
「…で?なにしてたんですか?」

真面目に問い直せば、土方さんは目を逸らした。
耳が、少し赤い。

「……お前を待ってたんだよ」
「え?」
「……っだから!お前を待ってたんだ!!…いつもこのくらいの時間に来るだろ。…今日は、仕事が早く終わったから……」

僕が来るのを待っていてくれた……?

その事実に、心が弾む。

少ない土方さんの時間を、僕の為に空けて待っていてくれた。

そんな優しさが、僕を捉えて離さない。

貴方から……離れられない。

「……ふーん。じゃあ、たまにはお酒でも呑みながら、話でもします?」
「……話をするだけで……いいのか…?」

これは、思わぬ一言。

「……土方さんは、どうしたいですか?」
「………いや」

そうやって、頬を赤く染める……可愛いところがあるのも、凄く好き。

……だから、今夜は土方さんの愛を、僕に頂戴?





「……っは、あぁ…」

あれから、言った通りにお酒を呑んで、少し話をして……狙い通りに酔っ払った土方さんは、あの日のように僕を激しく求めてきた。

そして今、土方さんは僕の中にいる。

「……んっ、は…ぁ、もっ、とぉ……」
「……総司……、熱い…な…」

土方さんの言うように、繋がった部分から、お酒で上がった体温だけではない熱を感じた。

激しく揺さぶられる度に、何も考えられなくなってくる。

それでも、この熱がもっと欲しいと思った。

「……ひじかた、さ……んっ、も………い、く……っ」
「……あぁ…俺も……」
「……っ、あ、は、ああぁぁぁっ……!!」

最後の追い込みに、僕はいてもたってもいられず、腕を回していた土方さんの背に思いっきり爪を立て、果ててしまった。





……また、先に目が覚めちゃった。

隣で眠る土方さんを見つめ、ため息が出る。


土方さんはきっと、今回も覚えていないだろう。

そう思うと、虚しさがこみ上げてくる。

こうなることがわかっていたのに、それでもお酒に縋る自分が……ちょっと切ない。

なにも考えたくなくて、土方さんにくっついたら………突然、温もりが僕を包んだ。

抱きしめられたことがわかったのと同時に、声が聴こえる。

「…………身体、大丈夫か?」

起きていたのか、なんて驚きはなく、覚えているのか、ということに驚いた。

「……だ、大丈夫ですけど……土方さん……昨日のこと……」
「ちゃんと覚えてるよ、今日は。背中、痛かったからな……」
「……あんなに激しくするからですよ。僕だって腰痛いんだから、おあいこです…」

嬉しくて出そうになる涙を見られたくなくて、僕は顔を土方さんの胸に押し付けた。



僕は……こんなことでも、泣けるんだ……。

そんな自分に会えたことを、気づかせてくれた土方さんのことを、今日もまた一つ、好きになった。




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