二人分の湯呑みに茶を注ぎ、片方を土方さんに渡す。
それを小さくありがとう、と受け取り、土方さんは喉を鳴らして二、三口呑んだ。

「…で、話ってのは何だ?」

惚けるかのように土方さんの喉を見ていた俺は問われてやっと我に返り、自分も一口茶を啜る。
気休めでも、やっと出来た土方さんとの時間を延ばしたいと思っているのか、それともただ、真実を聞く勇気が無いのか。
出来るだけゆっくりと一口を嚥下し、一間を空けて口火をきった。

「…何故、最近俺を避けるんですか」
「避けてたのはそっちだろ」
「それは…!」

やはり土方さんは、俺なんかの直入過ぎる質問に易々と答えてはくれずに手強かった。
土方さんに口で勝てるのは恐らく、この新選組でも総司か山南さんくらいだろう。
口下手の俺が簡単に勝てるはずもない。

しかしそこで挫けてしまっては何の意味もない。
せめて、気づいてしまったのかそうでないのかくらいは聞き出せたら…。

「…なぁ斎藤。俺は確かにお前『ら』を避けてるよ。でもそれは、お前らには関係ないんだ。だから気にしなくていいんだよ。ただ少し、今は我慢していて欲しい」
「あの、それは「最近さ、お前が初めて道場に来た時のことをよく思い出すんだ」

俺の言葉を遮り出てきた土方さんの言葉は、思いも寄らず昔語り。
だが、それを口にする土方さんの顔は久々に穏やかで、この空気を壊すのが嫌で俺は聞いているしかなかった。

「最初はお前、警戒する猫みたいに毛逆立てて、誰とも打ち解けられなかったよな。俺とも…。でもある日、俺がお前の相手をした時に俺はこっぴどく負けて。腹に一撃食らってぶっ倒れた俺が目を覚ました時、お前は泣きそうな顔して謝ってきたんだよな…俺の不注意だっただけなのに。そんで俺が安心させる為に頭を撫でてやったら、お前真っ赤な顔して逃げてくし。その割にそれから俺が道場に顔を出す度にお前は俺の傍を離れようとしなくなった…」

とつとつと語られた俺の昔の姿は何とも恥ずかしく、人知れず顔が熱くなる。
…あの時の俺は、果たして土方さんにどう映っていたのだろうか。
気にはなったが、訊けはしなかった。

「あれから、お前は何も変わってない。真面目で純粋で、変わったのはきっと…時世と、俺自身だ」
「そんなこと!そんなことありません!土方さんはずっと…!」
「…土方さん?総司ですけど」
「「…!」」

突然響いた総司の声。

襖の向こうから聞こえた筈なのに、その声は異様に近くに感じた。
それと同時に、さっきまでこの部屋に確かにあった筈の穏やかな空気も切ない感情も一瞬にして霧散し、張り詰めた空気だけが支配した。

「…土方さん?」
「…何の用だ?」

返した土方さんの声もどこか刺々しく、昔の二人ならば有り得ない様子に俺が戸惑う。
それはもちろん総司も同じだったようで、外で小さく息を呑む気配がした。

「…近藤さんが」
「そうか。すまねぇな斎藤。茶、御馳走様。総司もわざわざすまなかった」
「あ…」

勢いよく立ち上がり、そのまま襖を開けて部屋を出て行く。
土方さんの背中を見ながら、結局何も聞き出せなかったと思い…それでも土方さんの言葉一つ一つに答えが隠されていた気がした。

総司と二人きりになった、土方さんの部屋。

総司も俺も、いなくなった部屋の主の行った方をぼんやりと眺めた。

「…土方さんは、気づいたようだ。俺と、お前のこと…」
「…うん」

恐れていた現実は、思いの外早く訪れた。

―――俺が、土方さんを傷つけたのだ。





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