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何故だろう。
あの日から、土方さんが俺を避け始めた。
…いや、正確には俺だけではなく、総司も避けられている。
仕事の時にはしっかりと俺を見て話をしてくれるのに、以前のように親しげに声をかけてはくれなくなった。
それどころか、俺の顔すら見てはくれないのだ。
もしかしたら、あの時に俺がおかしな態度を取ったせいかもしれないと散々悩んだりもした。
避けられていると気づいた時まで、穢れた自分を見られたくなくて避け続けていたというのに、いざ逆に避けられると苦しい。
「……もしかして」
気づかれたのか。
その証拠の如く、土方さんは総司に対してまで態度が変わったのだ。
俺たちを同時に避けるのだから、俺たち二人に共通する事柄であると予想するのが普通だろう。
そして、俺たちに共通する疚しい隠し事は、どう考えたってアレしかない。
もしそれが原因だというのなら、土方さんの行動は当たり前だし正しいだろう。
俺が逆の立場なら、やはり同じだったかもしれない。
―――因果応報。
自らが撒いた種で、誰も恨むことすら出来ない。
それでも俺は、あの人に嫌われたくないし信頼を失いたくはない。
せめて部下としてでも、俺の話を聞いて欲しい…。
なんと虫のいい話だろうか。
そんな望みを俺は恐れ多くも未だこの胸に抱き続け、棄てられずにいた。
総司の部屋に呼び出されて、いつもの如く事に至る。
今日は俺が、土方さんの役だった。
正直、俺は自分が巧く成れているとは思えない。
流石に行為自体は、初めてその役をやることになった時のようには酷くなく、だいぶ慣れてきたとは思う。
問題は土方さんに成りきれないこと。
何もかもが総司の方が上手で、いつも全てが終わった時に思うのだ。
総司と土方さんの付き合いの長さ。
…嗚呼、俺は負けているんだと。
それでも総司が望むから、俺はその日には精一杯集中して行為を進める。
そして今日も、身体を柔軟に拓いた総司の腰をしっかりと掴み動かすのだ。
「あっ…!ぁんっ、や、もっと…もっ、としてぇ…!」
ガンガンと腰を動かし俺自身で中を抉る。
きゅうきゅうと締め付けてくる後孔に俺は吐精感を必死に堪え、総司は本当に何に対しても天才だと実感した。
「そんなにいいのか、俺の、これ!」
「んっ!!あぁん!いい…いいから、それも…っとぉ!」
なるべく土方さんにならなくてはとそっちに神経をすり減らしながら、総司への奉仕に努める。
不思議と、こうしている間は総司が可愛く思えてくる。
もっとと言われればもっと良くしてやりたいし、達きたいと言われれば…。
「あっあっ、ね…じかた…んっ、もぉ」
「いいぜ…存分に出しな」
「あぁあん!!やっ、は、あっああぁぁ!!」
腰を振りながら、好き、好き、土方さんと泣きながら達した総司を解放する。
抜く瞬間に、そこから俺の出したものがたらりと糸を引いて流れ出た。
それをどこか冷めた目で眺めながら、俺は総司に話してみようと思った。
「…なぁ総司。最近の土方さん、どう思う?」
「さぁ…ね。もしかしたら…」
「…気づいている、か?」
総司はそれには返事をせず、脱いだものに再び袖を通していた。
その後ろ姿を黙って眺めながら、俺は総司が以前ほどの自信が無くなっているのに気づいた。
朝焼けの光を受けた背中は、どこか淋しそうで…見ているこっちが辛くなる。
気づいた時には、俺はその背中を抱き締めていた。
「…斎藤君?」
「…すまない。ただ、何となく…」
「変なの。斎藤君は面白いね」
あはは…、と掠れた声で笑うから、それに比例して抱く力を強くした。
そうしながら、俺は頭の中で別のことを考える。
…土方さんを、茶に誘ってみよう。
せめて俺たちのこの想いが、あの優しい人を傷つけていませんように。
今はただ、そう願うしかなかった。
前方を歩く土方さんの背中を、必死になって追いかける。
「…かたさん!土方さん、待って下さい!」
「………斎藤」
やっと止まってくれた土方さんに追いつくと、急いで深呼吸をして息を整える。
土方さんはそんな俺を黙って見下ろし、ただ待っていてくれる。
そこに、やはり土方さんは土方さんなんだと思わせる優しさを感じて、胸が熱くなった。
俺はどうしても、この人を失えないのだ。
「あのっ…!久々に、茶でも如何でしょうか!?美味しい茶菓子がっ「悪い。まだやることがあってな…」
そう言って、また背中がこちらを向く。
ずっと見てきた背中。
強くて、憧れで…好きで好きで堪らない。
待って、と伸ばした手が空を斬り、一気に虚しさが身体を包んだ。
何があっても、最後まで共に行くと誓った相手。
この先もこのままでいいのか…その思いが、俺を突き動かした。
「おね、お願いします、土方さん!俺は…あんたと話がしたいんだ!」
歩き始めていた足が止まり、切れ長の瞳が再び俺を見る。
しかし振り向きざまの顔は苦しそうに歪み、それは一瞬で消えたとしても俺の心を深く抉った。
俺はそこまでのことをしたのだと自責し、それでも何とか精一杯、土方さんを見つめ返して答えを待った。
暫く黙っていた土方さんは、一つ大きく溜め息をつくと微かに笑って俺に言う。
「…少しだけだからな」
浮かべたのは、何とも疲れた微笑みだった。
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