縁側から離れた俺は、気を取り直して総司を捜す。

今日はアイツも巡察はない。
自室か、あとは軒先か…。

しかしその何処にも姿が見えず、急ぎではないからまた後で捜そうかと自分の部屋に向かう。

すると、俺の部屋の前に目的の人物はいた。

「総司…」
「あ、土方さん。何してるんです?」
「何って、俺はお前を捜して…。つーか、お前こそ人の部屋の前で何してんだよ」

別に何も、と空を使う。

全く、何年付き合ってもコイツのことだけは理解出来ない。
きっと、これから先も一生理解出来ないだろうと、もう考えるのは諦めた。

こんな不毛なやり取りは時間も気力も無駄だと、本来の目的を片付けることにした。

「お前、最近変わったことはないか?」
「………例えば?」
「否定しないのか」
「だって、人生長いんですよ?何にも変わんないままでいる方が難しいと思いますけど」

ああ言えばこう言う。

総司の態度は相変わらずで思わず忘れてしまいそうになる、ほんの些細な変化。

浮かべる笑みも、口をつく言葉も意味はない。
ただじっと瞳を見ればわかる、僅かな影が全てを著している気がした。

「…はぁ。一体お前らは何を隠してんだ。斎藤も態度がおかしいし、お前も何か変だし…」

言った瞬間の際、総司から笑みが消えた。
しかし、その無表情は直ぐにまたいつもの笑みで隠される。

やはり、何かある。

「何のことですか?確かに僕は、土方さんに話したくないことの一つや二つありますけど…。でもそれは当たり前でしょ?それとも、新選組の副長殿には何もかもお話しなきゃいけないんですか?それに斎藤君だって、僕は何隠してるのか知りませんけど、僕と同じなんじゃないですか。土方さんがそこまでお節介だとは思いませんでしたよ」
「……やたら饒舌じゃねぇか」

指摘すると黙りを決め込む。
明らかに苛々していた。

おそらく、俺が呷られて怒ることで話を打ち切らせようとしたのと、単に核心を突かれて感情的になったのと。
どっちにしても、総司の言葉はもっともだ。

嘘が含まれていることに気づいた上で、今日はここまでにしておこうと思う。

あまり深入りし過ぎることに、俺自身が不思議と危機感を感じた。

とりあえず、一番酷かった斎藤の態度もこれから様子を見ることにして、あまりにも変わらなかったらまた動けばいい。

「まぁいい。とにかく、お前も斎藤も最近注意力散漫なんだよ。油断して怪我なんかしねぇよう、気をつけろよ」
「…土方さんが僕の心配なんて、明日は雪が降りそうですね」
「言ってろ」

鼻で笑ってその場を離れた。

最後に見た総司の顔は心なしか寂しげで、総司のそんな表情を俺は初めて見た。

その事実を、嬉しいのか哀しいのか…複雑な気持ちで受け止める。

なぁ、総司。
いつから、こんなに距離が開いちまったんだ?





その日の夜。
溜まっていた雑事を処理して、茶でも呑んで一息つこうと部屋を出て調理場に向かう。

俺はその時、後々その行いを後悔することになるとは思いもしなかった。



静まり返った屯所の廊下を歩き、ある部屋の前を通った瞬間。

「…っ、あ、ゃ…」

それは、間違いなく『あの時』の声。

誰か屯所に連れ込んだのかと考え、しかしそれが女のものとは違うことに気づく。

「ったく、自重しろよ…」

他人の情事、しかも男同士のそれを聞かされるなんて最悪だ。
かと言ってやってる最中に出て行くほど俺にそんな度胸はないし、他人のことに口を出すほど野暮でもない。

そのまま通り過ぎようと再び一歩を踏み出そうとして…出来なかった。



「あぁ…あっ、…じかたさ…、土方さんっ!」



一瞬で、何もわからなくなった。

秋らしい虫の鳴き声も、灯りを作るために木を燃やす火の音も、部屋から聴こえる密かな息遣いも。

俺はここにいて、自慢じゃないが今はそういう相手もいない。
その筈が、しかし中の人間は確かに俺の名を口にした。

飛び込もうかと思った。

俺の名を勝手に使うな…そう言って、誰がそんな馬鹿をやっているのか、その顔を拝んでやろうと。

だが、昼に総司や斎藤と話した時に感じた例の危機感を再び感じ、身を潜めて中の様子を窺うことにした。

犯人だけは突き止めたい。

そのことだけが、生まれる危機感を凌駕した。

息を潜めて身を隠す。
暫くそうしていると、行為が終わったのか小さく会話が聞こえてきた。

「……俺は、もう駄目だ。やはり、隠していくのは…」
「じゃあ言うの?あなたが好きで、あなたに抱かれたくて、こんなことしてましたって。あの人、意外と潔癖だよ?嫌われて避けられて、君は耐えられる?」
「そ、れは…」
「感づいてはいるけど、まだ気づいてはない。まだ大丈夫だよ」

息を詰める。

それは、総司と斎藤の声。

一瞬にして、全てが繋がった。

二人の態度と今のやり取り。
二人が隠していたのは、このことだったのかと理解する。
だが、頭は理解しても心は違う。

それまで信じていたものが、足元から崩れていく…そんな錯覚に眩暈がして、急いで自室に戻った。





その日から、俺は徹底的に二人を避けた。

どう顔を合わせればいいのかわからないというのもあるが、会えば言ってしまう気がしたからだ。

何故、俺の名を呼んだのか、と。

まだ、これ以上のことは知りたくない。
それが本音。

だから、落ち着くまでは避けようと決めた。

代わりに訪れた不眠は、二人と相対する勇気が出るその日まで甘んじて受けよう。

それが、今の俺に出来る精一杯だった。





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