新選組隊内の乱れを監督するのも、副長である俺の仕事。
そしてそんな俺が気づいた、ある一つの変化。

それは、総司と斎藤に訪れた、微妙な確執だった。

以前からこの二人は、世間的に言う仲の良さとはほど遠かった。
ただ、互いに非凡な剣の腕を認め合っているようで、『背中を預けでもいい奴』…そんな解釈だった。

そんな二人が、最近やたらと一緒にいる。

まぁ、それだけなら俺だってただ単に二人の距離が縮まったんだと思い、深く考えはしなかったはずだ。

だが、二人とも明らかに様子がおかしい。

斎藤は、どうやら俺を避けているらしく一時期は俺もアイツに何かしただろうかと考えもしたが、全く思い当たらなかった。
そして、いつも感じる視線。
気になってこっちが見返すと、慌ててそれを隠す。

ここ暫く、俺は斎藤の笑顔を見ていなかった。

総司は、表面的には変わっていない。
相変わらずくだらない悪戯も、何年経っても減る様子を見せない減らず口もそのままだ。
しかし、奴もどこか変だった。
一人の時を見かけると、決まって上の空。
それから斎藤と同じく総司からもまた、視線を感じることがあった。
こっちは逸らされることなく、にこやかに笑い返されるが。

総司の目が、ここじゃない何処かを見ている気がした。



はっきり言って、家族のように集団で一つ屋根の下に暮らしていても、結局俺たちは他人同士だ。

人の感情の機敏に土足で踏み込んで良いわけもなく、俺だってそんな無体なことはしたくない。
しかし、日々を重ねるごとに悪化していく現状をただ黙って静観している訳にもいかない。
このままでは、いつか他の連中の迷惑になるだろうし、アイツら自身が危なくなるだろう。

二人の様子からして、おそらく互いに関連があるのだろうし、そこには俺も何らかの関係があると思って間違いない。

俺がしゃしゃり出て果たして丸く収まるかは多少不安だったが、何もしないよりはマシだろうし、いざとなったら近藤さんを頼ればいいかなどと、この時の俺は安易にそんなことを思っていた。



まずは斎藤から、とその漆黒を捜す。
今日は巡察ではなかった筈だし、道場にもいないとなると…居場所は一つか。

元々斎藤は、あまり他人との接触を好まない。
昔からの縁で、近藤さんや俺、平助や左之助といった面々とは割とよく一緒にいるが、それでも暇な時は大抵、一人で縁側に座り茶を呑んでいる。

そして案の定、今日も斎藤はそこにいた。

「斎藤」

見慣れた後ろ姿に声をかけると、あからさまに身体を強ばらせて口元に湯呑みを持って行く腕の動きが止まった。

今までは直ぐに返ってきた返事が、今は内心の苦痛を表すかのように異様な間が空く。

「………はい」

傍に近づいて話をするために顔を見ると、斎藤と視線が合わない。
斎藤がどこか気まずそうに俯いているからなのだが、長い髪の間から見える白い頬にわからない程度に汗が滲んでいたのを俺は見逃さなかった。

「何があった?」
「え?」

初めて目が合う。

いつから、コイツはこんなに哀しげな瞳をしていたのか。

揺れる蒼を見ながら、どうしてもっと早く気づかなかったのかと自責の念に駆られた。

「総司と何かあったのか?それは…俺と何か関係あるのか?」
「な…、な、何もありません!俺たちは何も!」

何もない。

その台詞を繰り返し、一心不乱に首を横に振る。

その姿があまりにも悲痛で、俺は思わず斎藤の腕を取って手を握りしめた。

「わかった、わかったから!悪い。もう大丈夫だから」
「…うっ、うぅ」

本当は大丈夫じゃない。

斎藤からは全く何の情報も聞き出せていないんだから。

しかし、これ以上斎藤が苦しそうなのを見ていられず咄嗟にそう言ってしまった。

まぁ、もう一人…総司がいる。
アイツなら俺も遠慮なく問い詰められるだろう。

「斎藤、あんまり無理すんなよ。何があったか知らねぇが、自分を追い詰めるのだけは止めろ。俺に言えねぇんなら、左之助や平助辺りに言ってみろ。聞いてもらうだけで楽になることもあるからな」
「………は、い……」

未だにカタカタと震えているその肩に励ますように手を置くと、またしても斎藤は身体を強ばらす。

空気が重い。
どうにもそれに耐えられなくなって、早々に立ち上がった。

上から見ると、もう斎藤の顔は見えない。

「休みなのに邪魔したな。すまねぇ」
「……いえ」

ただでさえ寡黙なのに、さらに口数が減ったことで生まれた気まずさを振り払うように、その場を後にする。

なぁ斎藤。
俺は、いつお前を傷つけたんだ?

何だか、凄く大事なものを一つ失った気がした。






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